「誕生日前日に世界が始まる」

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 真也はコンロの火を止めて歩いてきて、オレの隣に膝をついてから、雪の前に並んで座った。 「なあ、あのさ。いっこ、大事な話があるんだけど」 「……? うん?」 「その前に……お前、今まで何人彼氏居たか分かってる?」 「さあ……何人だっけ」 「五人」 「え、そんなに居たっけ?」 「ニ日で別れた奴とかも入れてな。お前結構モテるもんな……」 「ああ……ていうか、よく覚えてるね、真也。さすが」 「さすがじゃねえよ……」  ため息をつきながら、オレを見つめる。 「でさ。こっから、本題なんだけど」 「……うん」 「オレとお前で、付き合ってみないか?」 「え? ……??? ん???」 「オレもお前も、それぞれ色んな奴と付き合って来たけどさ」 「――――……」 「……結局、オレ、お前が一番可愛いんだよね」 「……で、も、真也って、ゲイじゃ……ないよね?」 「うーん……」 「うーんって?」 「しいて言うなら、女の子が好きっていう明確なもんも無い気がする。ずっと色々考えながらきたんだけど」 「――――……」 「凌の側が一番楽しくて、凌が一番可愛いと思ってるのはずっとそうでさ。飯も作ってやりたいし、泣いたら抱き締めてあげたいし。つか、なんかもう、他の奴に、泣かされてほしくない」 「――――……」 「今までってさ、オレらどっちかに付き合ってる奴が居たけど……。でも、今、オレ達、誰とも付き合ってないだろ」 「え、真也、彼女は?」 「少し前に別れた。さっき電話しようと思ってたっていうのも……お前にこの話をして告ろうかと思ってて。でも、今日彼氏と会ってるのも知ってるし、どうしようかなと思ってたら。……お前がオレのとこに来てくれた」 「――――……」 「凌、可愛いし良い奴だし、すげえ好きだけど……付き合う奴がひどすぎてさ。浮気とか当たり前みたいな奴とばっか付き合ってて、オレ、すげえ嫌だったんだよ」  ……顔で選んでしまってたからだろうか。それはオレも悪いと思う……。   「……う。……なんかごめん……いつも聞いてもらって……」 「……聞くのは良かったんだけど。途中から、相手に腹が立って来て」  真也が、手を伸ばして、オレの頬に触れた。   「オレ、浮気はしない。お前が大事で泣かせたくないから」 「――――……」 「今までもお前のこと、大事にしてきただろ? オレ」 「…………うん」 「付き合っても、変わらないと思う。ていうか、もっと大事になると思う……だから、オレと、付き合ってくれない?」 「……え……」 「……………」 「オレ、は……」 「うん。凌は?」 「え……あの…… いい、けど……」  思わずそう言ったら。  真也は、ふ、と嬉しそうに笑った。 「ん、じゃあ決まりな?」  言った真也に、どうしていいか分からなくなってきて、俯いた顎を上げさせられて。  え、と思っている間に、触れるだけのキスを、された。 「…………!!」 「は。……何その顔。可愛いんだけど」  クスクス笑われて、頬に触れられる。 「……だっ、て……平気、なの?」 「平気って何?」 「……だって……オレ、男、だし……」  そう言うと、真也はオレを見つめたまま、ふ、と笑った。 「そういう意味で好きじゃなきゃ、付き合おうなんて言わないから」 「――――……」  唖然としてるオレに、真也はまたクスクス笑い出した。 「まだ実感しないだろうけど。明日から実感してって? オレも、してくから」  言われて、とにかくそれ以外できることはなくて、ただ小さく、何度か頷く。 「とりあえず、飯食って、良く寝て、明日はお前の誕生日デート、な」 「……う、ん」 「飯の準備、手伝って」 「……うん」  さっきまで、この世の終わりみたいな気分だったのに。  ――――……世界が今から始まるみたいな、キラキラした感覚。 「誕生日プレゼント、何か欲しいものある?」  お皿を出しながら、楽しそうに真也が笑う。 「……無いよ」 「無いの? んー、じゃあ、店とか回りながら探そ」 「……でも無いよ?」 「いいから、探せよ? 記念になるもの、贈るから」 「……ん」  楽しそうな真也に、少し頷きながら、心の中で思う。  ……オレが真也に対して、持ってきた気持ちは。  ……絶対叶わないと思って、奥底に、封じ込めてきていたから。  二十歳の誕生日、恋人として過ごせるなんて。   それ以上、何もいらないんだけどな……。  そんなことを思いながら、オレが真也を見上げると。  何も知らない真也は、それでも、優しくふわりと微笑んだ。 - Fin - (2022/12/24) 2023/9/29 少しだけ番外編書きます。→
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