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魔女様に質問する。それは普通では考えられないほど恐れ多い行為。
だから私と父さんが昨日ぶりに教会に舞い戻ったとき、奇妙な緊張を覚えて思わず手を繋いでいた。そして繋いだ父さんの手も、僅かに震えていた。
いつもは清廉さと親しみやすさを覚えている街の中心にある教会は、その豪奢な尖塔の影を長く伸ばしてその巨大さで私たちを威圧しているように感じられた。
けれども私たちの訪れは既に予想されていたのか、にこやかな使徒に迎え入れられ、奥の間に通された。
「マイヤースさん、私も辻占いというものを調べてみたのですが、これまでこの領域の魔女様の記録で『辻占い』という職業が示されたことはありませんでした」
「では、やはり魔女様が間違」
「メイさん。魔女様が間違うことはありません。何故なら魔女様はこの領域の全てを把握されているからです」
食い気味の使徒のやや狂信的な視線にどきりと心臓が跳ねた。灰色の短髪と青い瞳から導かれる表情はにこにこと柔和に見えるけれども、目が全く笑っていないことに背筋に一筋、汗が流れた。
「不心得者がそのような噂を流すことがあると聞きますが、嘆かわしいことです」
「けれども、占い師の先生に聞いても私は占い師になれないのだそうです。私には占いをするための魔力がないのです」
「それはきっと、何か勘違いがあるのです。魔女様は絶対です。メイさんの幸せのために魔女様が示された道なのですから、そのような言葉に惑わされてはなりません」
「使徒様、娘が占い師になる方法がわかりません。魔女様のご指示に従うことは不可能ではないのでしょうか」
「大丈夫です。昨日のうちに、この街の皆にメイさんが辻占いになるので協力して欲しいと周知いたしました」
私と父さんは真っ青になった。
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