1-2 やっぱり魔女様の勘違いでは、恐れ多いけれど

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「その、使徒様とご家族はどうなされたのでしょうか」  これまで使徒は行商人となるべく暮らしていた。なのに一転、使徒になれという。使徒とは魔女の声を聞き、民に伝える役割だ。一旦使徒になればその街を離れる事は無い。一生を教会と狭い範囲で過ごす。つまり、それ以前の生活とは全く異なってしまう。  それでも魔女様のご指示は絶対だ。だから使徒の両親は嫌がる使徒を泣く泣く教会に置き去りにし、旅だった。  その直後の使徒は絶望に暮れ、何も手につかない状態だったという。けれども使徒は元来真面目であり、かつ不真面目であった。教会での生活を学びつつ、元の生活について考えた。  フラクタは港町だ。ここには世界の各地から様々な事物が訪れる。その中には商材となりうるものが大量に含まれている。その一部は確かにルヴェリアに流通するものの、多くはフラクタの街を素通りし、再び世界に運び出さていく。  使徒は行商人としての立場で考えた。自身が行商人であればいったいどうするか。 「ルヴェリアで売れるものをここで買い集め、丸ごと私の家族に行商を任せれば、ここにいながら大きな商売ができるのです」 「……」 「フラクタに何が運ばれて来るかはその時々によりますが、私は家族の動きとどの時期に何が売れるかをこれまでの経験で把握してありますから、大儲けです」  そう述べて使徒はニコリと微笑んだ。  えげつない。ここは港町フラクタ。  商人にとってはこの街は大きなチャンスだけれど、いつここに何が運ばれるかわからない。だから直接外国商船とではなく、商材を保管するこの街の商店で買付を行うのだ。  そこを使徒の家族の行商だけは、商店を通さず、使徒が教会内に買い集めた商材をほぼ原価で買い、いつ来るかわからない外国行きの商材を教会に預けて良い値段で代理で売り捌いてもらうことができる。  もう一度言う。えげつない。そのえげつなさは、前世で経済の仕組みを理解しているメイの心に染みた。 「あの、使徒様。そんなことをしても良いのでしょうか」 「何故です。使徒はその教会の代表です。しかも私は魔女様のご指示で使徒となりました。何を憚ることがありますか。それに余剰金を教会の拡張や補修に充てているのですから、文句を言われる筋合いはありません」 「はぁ」 「それで私があなた方に伝えたかったことは、魔女様のご指示は解釈のしようがあるということです」
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