1ー3 辻占いが意味するもの

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1ー3 辻占いが意味するもの

「使徒様、解釈とはどのような意味なのでしょうか」 「そのままですよ。あなた方にとって私は何でしょうか」 「その、この教会の使徒様です」 「ええ。みんなそう考えています。けれども私の主観では、私の第一は使徒ではなく、アルベール商会のグレイブ・アルベールです」 「はぁ?」  今度こそ私と父は慌てた。なぜならば目の前の使徒は使徒ではないというのだ。使徒というのは魔女様の忠実な僕であるはずなのに。  ……あれ? でも使徒でもあるのよね。それは間違いがなくて。 「納得頂けましたか?」 「いえ、その、よくわかりません」 「私は使徒を一番の仕事としつつ、アルベール商会として行商を行い、趣味で薬草園を作って薬草を売り捌いています。このお茶は美味しいでしょう? 私は昔から植物が好きだったのですが、旅暮らしでは栽培なんて不可能です。小さな頃の夢が叶いました。それにこの教会の敷地は魔女様のお力で満たされていますから、とても栄養価が高いのです」 「魔女様のお力を利用して薬草を作って売りさばいているのですか?」 「ええ。素晴らしいお恵みです」  その悪意のなさそうな笑顔に破戒僧という言葉が浮かんだけれども、この使徒は誰よりも魔女様への信仰が厚いような気がする、信仰とは何かがよくわからなくなってきたけれど。 「つまり、あなたが辻占いをしながらご実家の調理師を兼ねることに何の問題もありません」 「辻占いをしながら、実家を継ぐ?」 「ええ。魔女様のご指示は人を縛るものではなく、幸福を指し示すものです。多くの方への魔女様のご指示は、有り体に言えばどのような人生を選んでも大差がありませんから、複数の無難な職業が示されます。けれども私やあなたのように、特に幸運となる道が存在するのであれば、それが示されるのです」
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