1ー3 辻占いが意味するもの

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 使徒はなんだかよくわからない圧の強い瞳で私をじっと見つめた。  私の中で辻占いといえば、やはりそれは前世の辻占いだ。あの路上に机を出して占いをする者達だ。  あの占い師たちは魔法使いではない。記入される個人情報や服装、それから会話のテクニックで相手の悩みを特定し、それをあたかも自ら占ったかのようなふりをして披露して玉虫色の回答で金を取る。それは魔法じゃなくて、ただのテクニックだ。  テクニック。  ……その辻占いでよければ私にもできるかもしれない。私の勤めていた探偵事務所の所長はおかしな人だった。宥めもすかしも何でもする人だったけど、色々なことを私に教えてくれていた。  占い。占いは吉凶を占うだけじゃない。例えば失せ物探し、探し人。そしてそれは確かに私の前世、探偵の仕事で間違いない。  この世界にない新しい、魔法ではない占い師。それが私の未来。 「答えが見つかったようでなによりです。私も同じ境遇の人間を見つけられて僥倖(ぎょうこう)です」 「同じ境遇……」 「こういう悩みは誰もわかってもらえないものでしてね。これまでなかなか孤独でしたよ。メイさん、今後ともいつでもお頼りください。魔女様の幸運をお祈り致します」  同じ境遇という言葉に妙な悲壮感が漂っていた気はしたけれど、とりあえず方向性を考えるヒントは得られた。そしてそれは思ったより、絶望的ではなさそうで、わずかに未来に光が開けた、気がする。混乱のほうが大きいけれど。  あれ? そうするとやっぱり私は辻占いになるのかな。何だか騙された気分だけれど、実家を継ぐのは問題はなさそうだし、詐欺師にもならなくて済みそうな気はする。なんだかライアーフォックスにつままれた気分だ。あれはモンスターだから、つままれたら怪我をしそうだけれど。 「メイ、父さんにはよくわからないのだが、お前が店を継いでも問題はないのか?」 「使徒様のお話では多分、問題ないんだと思う」 「お前の中の辻占いっていうのは何なんだ。新しい職業だなど、それほど簡単に作れるとは思えない」 「それについては私もちょっと考えないといけないけれど……それより予定通り出るかけましょう?」 「予定通り?」 「ええ。店を継いでいいみたいだから、コックコートと道具を買ってちょうだい、父さん」
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