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想像したような生活とは言えない――。
どう言えばいいだろう。もっとこう、正義のためなら命を投げ出す覚悟で警察官という職業を志した。
しかし現実問題、エリートでも何でもない俺が配属されたのは住宅街の派出所で、所謂『交番のおまわりさん』だった。
憧れていたのは刑事ドラマで見るような捜査、凶悪犯の逮捕、そして被害者の救済。それらに携われないのは俺の配属だけの問題じゃない。純粋にこの国は、ここらの治安は、抜群に良好なのだ。
時たま遭遇する暴力事件だって、結局は酒が悪さをしたり痴話喧嘩の延長だったり。本庁から捜査員が駆け付けるようなものではない。まあ駆けつけたらそれはそれで俺の出る幕じゃないが。
――じゃあ俺が血税から給料を頂いて、この交番で日常何をしているかって話になってくる。この交番で最もポピュラーな仕事、それはやはり『交番のおまわりさん』然としたもの、住民の相談にのることだ。
一番多いのは落とし物、遺失物の相談。あとはちょっとした事故だったりの立会だろう。シリアスなもの、即ち少しでも事件性のあるものは本署に連絡して引き継ぐし、俺がここで自分で解決していい問題って言うと、少し和やかになってしまうのも仕方がない。
ここに配属されて一年が経つ。先輩不在でも留守を任されるようになり、地域の人々とも顔なじみになってきた。正直居心地は悪くない。
今日も交番の奥に設置したコーヒーメーカーから香ばしい匂いが漂ってきて、それはそれで平和でいいんじゃないかなと思っている次第だ。
ここでこういう生活を送っていて、どうのようにすれば所謂出世というものに縁がでてくるものなのだろうか。正直見当もつかない。
先輩が上に取り計らってくれる?
勤務表などから勤務態度を評価される?
それとも完全な年功序列で本署にでも異動してくれるのだろうか?
……分からない。
でも、まあ、なるようになるか。平和が一番。今を満喫すべきだ。
――と、こんな風に油断しているから、変な事に巻き込まれるんだ。
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