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粉雪が振り落ちる夕刻どき。街は甘ったるいケーキみたいにデコレーションされ、女子どもは誰と誰がデートするのかと噂話に忙しい。ボッチの男連中は話しかけられることすらあきらめ、俺は平和なクリスマス・イブなんてとうの昔に捨て去っている。
「みーやのっ!」
「いっだ!」
後頭部に衝撃を受けて振り返ると柚木が高校の通学バッグを振り回していた。真っ黒のセミロングヘアが冷たい風になびく。
「バッグでぶん殴るのやめろって言ってんだろ!」
「なによ、せっかく忘れ物を届けてあげたのに!」
差し出されたICカードケースをひったくると柚木は俺の前に回り込んだ。
「ねー宮野ヒマー? 今からマルキュウモールいかない?」
「暇じゃねえし」
「えー? ボッチのくせに?」
「おまえもだろ」
俺は柚木のしつこい誘いを振り切って坂道を駆け下りる。確かに俺はボッチだし慰めあう友達もいない。
だが俺のクリスマスは尋常じゃないくらい忙しい。目をつむって開いたら意識がとんで終わってほしいくらいだ。
「ヒナキのクリスマス限定キーホルダー売ってるのになぁ。3日間限定販売なのになぁ」
しつこく追ってくる柚木の言葉に後ろ髪を引かれそうになったが、聞かないことにしてバスに飛び乗った。俺と柚木がハマっているアプリゲーム『幻妖獣大戦』のメインキャラ、雛那姫の限定キーホルダー……欲しいに決まってるだろー!
誰か俺にもプレゼントくれよと心の中で叫びまくっているとスマホが振動した。しつこいな柚木かとタップしたら母さんからだった。
──おじいちゃんが庭で転んで腰を痛めました。今年の配送係はあなたです。
「はあ?!」
バスの乗客から冷たい視線を浴びて俺はうつむいた。スマホを握りしめて文字を連打する。
──じいちゃんは心配だけどサンタは成人男性だって決まってんだろ!
──数えで18。もう成人扱いだから問題ありません。
都合よく日本の風習ぶっこんでくんな!と打ったが返事はなかった。
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