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バス停から山道を登ること数十分、鬱蒼と樹木が茂る山の中に俺んちの神社がある。父親が宮司、母親は配送係家系の末裔。年の瀬と年始は父親のサポートに徹するが、クリスマス直前は母親の手伝いに忙殺される。
「にいちゃん、ただいまぁ!」
「おかえり、だろー」
玄関扉を開けるなり弟が飛びついてきた。手にはラッピング用のリボンを持っている。包装紙に水分をとられてカサカサになった小さい手、部屋におさまりきらず廊下まであふれ出した大量のプレゼントボックス……山と積まれた配送待ちの荷物の奥に菩薩観音が鎮座している。
「にいちゃん、これどう?」
「おーうまくなったなー。だが兄ちゃんの背中は遠いぞ」
「がんばるー!」
弟がふくふくした手で懸命に包装紙をたたんでいく。齢4つにして達人並みのラッピング技、さすが俺の弟だと鼻が高くなる。
いや実際、弟の方が俺の何十倍も才能がある。長男の俺が神社の跡取り、次男の弟が配送係の跡取り。生まれた時から決まっていることだ。
母さんはじいちゃんを病院に連れていってまだ帰ってないみたいだし、俺も手伝うかと嗅ぎ慣れた包装紙の匂いを感じていると、中1の妹がスマホ片手に姿を見せた。
「ちょっとお兄ちゃん、遅くない? 彼女と寄り道でもしてたの?」
「してねーし、てか彼女いねーし」
「こないだ一緒にアイス食べてたじゃない。マルキュウモールで」
「それは俺がゲンヨウの対戦で負けて……ってなんで知ってんだよ」
「女の情報網を見くびらないで。はいこれ、お母さんに頼まれたアプリのバージョンアップ、済ませておいたから」
妹に赤いスマホを突き出されて渋々受け取った。十二月の期間限定で起動できる配送係専用スマホだ。じいちゃんが倒れる前からアカウントの取得は済ませていたらしく、母さんに指示された通りログインする。
年々体の具合が悪くなるじいちゃんの手伝いをしていたから、操作方法はなんとなくわかる。うちは宮野地区一帯の配送係だ。プレゼントの手配から発送まで地区ごとに細かく役割分担がされていて、母さんも幼い頃からラッピングの手伝いをしていたらしい。
配送係は成人男性と決まっている。母さんの代には担い手がいない。じいちゃんが倒れたら弟が成人するまで俺が代理かなとは思っていたけれど、まさか高2でやることになるとは思わなかった。
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