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間もなく年明けを迎えるというのに、カノープスの事務所は荒れていた。今年受けた仕事の書類、忙しい部下たちの食べ終えた食器が山になり、どうしようもない状態になっている。
カノープス自身が片づけたい気持ちは山々なのだが、何せカノープスは両足が陶器のような義足なのである。片づけがそもそも嫌いなのは事実だが。
足を失ってから、足を失った要因となった相手に復讐するために作った組織では部下の人数も多くはなく、昨日、今日とほとんど出払っており、いよいよ年の瀬が迫って焦った。今日は特別な日、そう、もう大晦日だ、なかなか人が捕まらず、高い金で同業者に掃除を頼んだ。
「だからって、なんで私なのよ」
シャウラの怒号が、事務所に響く。シャウラは、真っ赤な髪に真っ赤な瞳、真っ赤なドレスに真っ赤なハイヒールを履いていて、とても片づけをしに来たようには見えない。
勿論、普段は片づけなど仕事にしていない。カノープスも、違法なことを主に仕事にしているが、シャウラも、依頼があれば何でもする女だ。非合法的なことを中心に。
「金は払うんだから良いだろう」
カノープスがあくびをしながら言うと、シャウラは、こんなのは私の仕事じゃない、と頬まで真っ赤にした。
「私の仕事は、こういうことよ」
カノープスの部下の男の襟首をつかんで頭を引き寄せると、ドレスの裾を捲り上げ、黒い紐状の下着に取り付けられた注射器を取り出して、その男の首筋に突き刺した。
男はあっという間に白い泡を吹いて、白目を剥いて、ごみの中に崩れ落ちた。
「おい、殺すなよ、ごみが増えたじゃないか」
「あんたがどうにかしなさいよ」
そう叫ぶ右手には、きっちりとゴミ袋が握られているのだから、シャウラも律儀だ。
「デルフィヌスを見習って、黙ってやれ」
カノープスはウヰスキーを喉に通しながらシャウラに声を投げた。
シャウラの後ろでは、確かに黙々と、一人の黒髪の女性がごみを拾い集めている。
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