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「何があるんですか?」
「浮気していて欲しかった、というのが」
「そんなことって……」
「……ある筈がない。そう思うだろうけど、あるのよ。離婚願望があって、より有利な条件で離婚をしたい、というのが」
「でも、相手が潔白だったら。浮気してなかったら成立しないじゃないですか」
「だから必要なのよ。浮気する相手が」
「それを……私にして欲しいと?」
「そうよ」目の前に両手を組んで、見詰めながら言われた。
『この人……本気で』そう悟りながらも、自分自身に置き換えたら肯定は出来なかった。
「私に出来ると思ってるんですか?」
「貴女なら出来るわ。貴女、自分でどう思ってるか知らないけど……。容姿の素養は充分よ。磨き方次第で色々な魅せ様が出来るわ」
「私は男の人に騙された人間ですよ?その私が、今度は他人を騙したり欺いたり……そんなこと出来る訳ないじゃないですか」
お願いだから、もう私のことは放っておいて欲しい――そう思って本音を吐き出した。
「……確かにそうね。それは無理もないことね」神楽さんは組んだ手を解くと、膝の上に置き背筋を伸ばした。
「でもね、人を欺くことが、全て不幸に繋がる訳じゃないわ。人を束縛から放つ欺きもある。人に真実を気付かせる騙しもあるわ」
ジッと聞き入る私に神楽さんは、小さく溜息を吐いた。
「……まあ、考えるだけ考えてみて。その上での答えなら仕方ないわ」
「……はい」答えた時、ふと疑問が浮かんだ。
「訊いてもいいですか?どうしてそれを神楽さんや牧原さんはしないのですか?」
「律ちゃんは優秀な助手として補佐してくれている。それに調査上、顔が割れるのは困るのよ。私も同様、顔割れは避けないといけない。……それに――調査上、証拠を押さえる為に抱かれるとなると、問題があるのよね」
「!だ、抱かれるんですかぁ?!」思わず大きな声を上げたが、驚くのは無理もないことだ。
「そうよ。あ、必ず抱かれないといけない訳じゃないけど。そういう場合もある、ということよ」
「そ、それは無理だと思うんですけどぉ!そんなに経験ある訳じゃないし。やっぱり無理ですよ」
「心配ないわ。先刻も言ったけど、貴女は素養ありよ。ちゃんと出来るようにトレーニングはするから」
『トレーニングって一体何するのよ?』質問しようかとも思ったが、それは止めておいた。これ以上混乱する要素を詰め込むのは勘弁して欲しいのと、答えは決まっていたから。
「……分かりました。返事は改めてします」力が抜けそうな足を踏ん張り立ち上がろうとする私は、何か思い出したような表情の神楽さんに呼び止められた。
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