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「言い忘れたわ。お給料だけど。仕事柄、不定期なの。案件が発生した場合ってことで。それでも月に1、2件はあるかな。もちろん時給じゃなくて報酬制。成功不成功に関わらず支払うから。不成功の場合は成功の1/3。案件に掛かる期間によるけど1件当たりの報酬は平均で20くらいで考えておいて」
「20って20万!ですか!?」
「そうよ。割りといいでしょ?そこもちゃんと考えて返事頂戴ね」
『20……20……20万、それだけあったら……い、いや愛莉亜考えて。私に出来るの……?』先刻まで決まっていた答えが、やじろべえのように心の中で揺れ始めていた。
講義中、この前神楽さんから聞いた話を纏めたメモを時折見ては迷い、考えていた。
やがて講義が終わると、最後列から東風君が下りて来て、急に横に座る音に驚いて我に返った。
「東雲、今日の講義メモった?」
『またいつものあれか』呆れながら「取ったけど?何?」そう無愛想に答える。
「ごめん、後でいいから送っておいて」形ばかり両手を合わせて、東風君は私を拝む。
「はい、はい。メールでいい?」私は貴方の神様じゃない……心中呟き答えた。
同じ一般教養の講義ではいつもこうだ。いや、寧ろ講義丸写しを狙って同じ講義を選んでるのかもしれない。
「いつも、悪いな。東雲、助かるよ。バイト次はいつ?コーヒー飲みに行くよ」
彼なりの気遣いなのだろうが、今の私には最も触れられたくない点なのに。
「もう、辞めたわ」怒りの沸点直前で押さえて答えた。私、偉い。
想定外の反応に、彼は暫し凍結した。『適応力の無い人……』ちょっとだけ彼を見下して思った。
「……そうか、そうなんだ。いや、余計なこと言ってたら悪かった」
彼らしからぬ、しおらしい言葉を聞いて、たった今見下したことに引け目を感じた。
「……何か困ってたら言ってくれよな。新しいバイトは?捜してたら紹介しようか?これでも俺、顔広いんだ」
心配してくれてるのは分かるけど、何となく東風君に頼りたくはない――そんな気がした。自分より頼りない存在に縋り付きたくなかったのかもしれないし、強い自分にならなきゃ――そう思ったのかもしれない。
「ありがとう、東風君。でも大丈夫だから。次のバイトも決まったし」ああ、私嘘ついちゃった。
「へぇ、もう決まってんだ。良かったな。何のバイト?」
「!な、何よ?またバイト先に来る気?そういうの困るから言わない!」嘘をつくとバチが当たる。すぐ当たるんだ。
自分の場当り的な、言葉の軽さを少し反省した。でも、決まってるバイトって……?あれしかないじゃない。……あれか。生活費もいるし、貯金だってそんなには……。仕方ない……のかな。
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