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プルルルッ!鳴り続く事務所の固定電話の着信音が、やたらと部屋に反響する。
「律ちゃん!ごめん、電話出れるぅ!?」
「はぁーい、今出ます」
漸く着信音が止まると、代わりに牧原律が明るく相槌を打つ声が部屋を賑わした。
「所長、東雲さんからですよ」
「あー、出る、出る。ちょっと待ってて」
神楽莉緒が受話器を取ると、つい2日前にここで聞いた東雲愛莉亜の声に間違いなかった。
「東雲です。先日は色々とお話しを頂いてありがとうございました」
「あ、どうも。神楽です。こちらこそ、無理なことばかりお願いしてごめんなさい」
「いえ、こちらこそ。お気遣いしてもらってすみません」
「電話くれたってことは、この前の返事かな?」
「はい。色々考えてさせて頂いて……」
「うん、うん」
「この前のお話し――受けさせて頂こうかと思って」
聞いた瞬間――神楽は片手を高々と上げた。それを見た牧原がクルクル回りながら、音のしないよう拍手する仕草をしてみせる。
「ありがとう、東雲さん。実は断られるだろうと思ってたから、嬉しいわ」
「そんな、これから宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくね。律ちゃんも横でめっちゃ喜んでるよ」
「はい。牧原さんにも宜しくお伝え下さい」
「もちろん。あ、ところでこの後時間あるかな?」
「大学も午後は講義ありませんし、私他のバイトはしてないので、大丈夫です」
「ありがとう。雇用の手続きとか、しておきたいこともあるから、一旦事務所に来てもらえる?」
「分かりました。今からだと1時間くらい後ですが、いいですか?」
「問題ないわ。待ってるね。じゃ、後で」
電話を切ると神楽と牧原はハイタッチを交わした。
「東雲さん、今から来るんですか?」
「ええ、来てくれるそうよ。律ちゃん、書類の準備お願いね。あと、メイク道具も。それと、ラブキャに予約入れてくれる?」
「所長?もうですか?早過ぎません?」牧原がニヤニヤしながら笑みを溢した。
「律ちゃん、こういうのはねぇ~、早いのがいいのよ。実際、出来る出来ないの判断は早い方が彼女の為なんだし。出来ないなら別の道を探した方がいい。出来るなら彼女の手に早く報酬が渡るしね。ウチとしてもその手の案件が手付かずだもの」
「……そうですよね。一緒に仕事出来たらいいのにな」神楽に頼まれた書類を纏めながら牧原は呟いた。
「私は、本当は心配してないんだけどね。あの子――きっと強いわ。芯が強くて、優しい。……だから大丈夫」
話を切り上げると、神楽は東雲愛莉亜を迎える準備に取り掛かった。
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