レッスン

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「ああ、貴女でしたか。所長を魔女呼ばわりしたのは。今、事務所にいると思いますよ。どうぞ、お入り下さい」 彼女がニッコリ微笑み、ドアノブに手を掛けドアを開けると――金属の(きし)む音と共に魔女の住処(すみか)が目の前に現れた。 『……何だか、魔女とは正反対な子。ほっこりする笑顔だわぁ。あ、いや安心してる場合じゃない。ここは魔女の住処だ……あれ?』 そこは白を基調とした、明るい清潔感のある部屋で、ちょっとしたお洒落なカフェを思わせる雰囲気だ。およそ古書店街の古い雑居ビルの中とは思えない佇まい。 案内された彼女に促されてソファに座った瞬間、隣接する部屋のドアが開いた。 「?あら、貴女。この前の酔いどれさんね」 突然、魔女と再会するなり、ガッツリ目が合った私は、たった今座ったソファから弾かれるように立ち上がった。 「あっ、あの……。その節はご迷惑をお掛けして、すみませんでした」 深々と下げた私の頭上で、あの夜と同じ柔らかな声が私を包んだ。 「どうぞ、お掛けなさい」そう言う魔女の容姿を改めて目に納めてみる。 やっぱり私より少し背が高く、艶のある栗色の長い髪に、切れ長の二重瞼の目が印象的だ。ブラウスとタイトスカートに包まれた体は引き締まって見える。 あの時は酷く酔っていた所為で分からなかったが、再び相見えた魔女は――美人だった。 思わぬ魔女の美女振りに見惚れる私に、魔女は仕草で『どうぞ』と座るよう促した。 ソファに腰を下ろすと、自然と目線が合い、背筋に力が入って――やはり緊張してしまう。 「あ、コーヒーをお淹れしましたので、よろしかったらどうぞ」 案内してくれた女の子がコーヒーをそっと置いてくれる。淹れたてのコーヒーの薫りが鼻先を(くすぐ)り、少しだけ緊張が和らぐ。 「律ちゃん、ありがと。あ、この子はウチのスタッフの牧原律(まきはらりつ)さん」 「ゆっくりしていって下さいね」 「……牧原さん。あ、ありがとうございます。いただきます」彼女に答える私を魔女が不思議そうに見詰める。 「……で?」 「あ、はい。えっと、何でしょう?」 「ふふっ……。くふっ、あははは……」 『あれ?私、何か変なことしたかな?』 笑いを漸く収めた魔女が言った。 「ふふ、貴女の名前よ。教えてくれる?良ければ、だけど」 顔から火が出る、とはこのことだ。 「ごめんなさいっ!た、大変失礼しましたっ!わ、私……東雲愛莉亜(しののめありあ)と申します。助けてもらったのに名前も言わないなんて……すみません。本当に……」 「素敵ね」 「……へ?」 「素敵な名前……って言ったのよ、東雲さん」
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