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「あっ」
後ろの声にビクリとする。
振り返ると、僕の後ろの男性はまっすぐ前を向いている。改めて正面を向くと、自販機の『あたたかい』ゾーンのボタンは、軒並み『売切』のランプが点灯していた。ちなみに、僕の手の中には、さっきボタンを押して出てきたホカホカの缶コーヒーがある。
「あぁ……」
すべてを察し、思わず声が漏れる。
「あの、お気になさらず!」
それを察したのか、後ろの男性は途端に慌てた。
「ほら、まだ残ってるやつありますし……僕はそれ買います!」
男性の言うように、自販機の『あたたかい』ゾーンの飲み物の中で、ひとつだけ『売切』のランプがついていないものがあった。
僕は自販機に近付いて目を凝らした。
「"おしるこ"ですよ?」
「……えっ」
小銭を探っていた男性は驚いて確認したが、たしかに売れ残っているその缶の表面には、つぶつぶの小豆がプリントされている。
すると、男性は持っていた財布を静かにポケットに仕舞った。
切なくなる。
耐えきれず、僕は持っていた缶コーヒーを差し出したが、彼はおどけて首を振った。
「いやいや、いただけませんって……」
僕も負けじと首を振る。
「頭と肩に雪乗っかってますよ?」
そう言うと、彼は自分の体に積もった雪をせかせかと払い除けた。雪の量から推測するに、かなりの時間外にいたことが分かるし、体も相当冷え切っていることだろう。僕はまた缶コーヒーを彼に差し出す。
「僕さっき来たところですから」
彼はなかなか受け取らなかったが、最終的にむりやり手渡しした。
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