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「はぁ〜、それにしても随分遅れてるんですね……」
白い息を吐き出しながら、本来バスがやってくるはずの方角に視線をやったが、バスの気配すら感じない。記録的な大雪の影響で、バスのダイヤはかなり乱れているようだった。
「三十分以内に来てくれないと完全に遅刻になるなぁ……」
僕がスマホを見ながら頭を掻いていると、横にいた彼がとある提案をしてきた。
「そうだ! 一緒にタクシー捕まえません? 僕も待ち合わせの時刻が迫っているので、タクシー使うかどうか実は悩んでたんです。行く方向が一緒みたいなんで、缶コーヒーのお礼にタクシー代を……」
僕は勢いよく首を振った。
「いやいやいや、悪いですって! タクシー捕まえて行くのはいいですけど……」
しかし、彼は簡単には食い下がらなかった。
「じゃあ、割り勘で! その代わり、あなたの降りた先で缶コーヒー買わせてください!」
「いや、そういう問題では……」
その後も彼は一歩も譲らず、ついにはタクシーを捕まえてきてしまっていた。困り果てた僕に、彼は満面の笑みを浮かべた。
「そんなお堅いこと言わずに。だって今日は」
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