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* * *
「年に一度のクリスマスでしょ?」
私が微笑むと、真っ白なエプロンを着た彼が驚いていた。
「いいんですか? 本当に?」
「うん! だって今日のためにたくさん手伝ってくれたじゃん? うちはもう商品も売り切れて、店閉めるしかないし……あとは簡単な片付けだけだから、バイトくんはもう上がってよし!」
「あ、ありがとうございます!」
彼は私に一礼してから、店の奥の方へ消えていった。そんな姿を見届けながら、私は近くにあったモップで床掃除を始めた。
色とりどりのケーキでいっぱいだったはずのショーケースは、見事なまでにスッカラカンになっており、自分の手で作ったケーキたちがどこかの食卓に並べられていると考えるだけで、私は胸がいっぱいになった。
窓の外を眺めると、大きな雪の粒が次々と流れてくるのが見える。
「積もりそうだな……」
そう呟いた瞬間、店の扉が乱暴に開かれ、外の冷気が勢いよく店内に入ってきた。
「よかった! 間に合った!」
中年の男性がゼーゼーと息を切らしながら、ショーケースに寄りかかる。私は目をパチクリさせた。
「お姉さん、すみません……いちごのケーキをひとつ……」
途端に、申し訳なさでいっぱいになった。
「お客様……あのですね……」
しかし、説明をする前にショーケースの中を見たらしく、現実を知った彼はそのまま床に崩れ落ちてしまった。
「そうですよね……クリスマス当日の、こんな遅い時間に、予約もせずに……いちごのケーキが売れ残っている方が奇跡ですよね……」
なんとお声掛けすればよいだろうか。
悩んでいると、彼は跪いたまま溜息を吐いた。
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