16人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「サンタクロース……」
俺は慌てて建物の影に隠れた。
見間違いかと思い、もう一度確認したが、そこにいるのは熊のような体型の大男で、黒いコートの下には赤い服が見える。真っ白ではないが口の周りに髭を生やしているし、麻袋ではないが大きめのエコバッグを担いでいる。顔がコートに埋もれてよく見えないが、あれは間違いなくサンタである。
「あの」
すると、いきなり背後から人の声がした。驚いて振り向くと、小柄な若い女性がこちらを睨んでいる。
「邪魔なんですけど」
状況を言えば、俺が狭い通路に突っ立っていて、道を塞いでしまっている。たしかにこれは邪魔だ。俺はすぐさま道を譲ろうとしたが、そのときターゲットが動き出す。
「すまん! 十秒だけ待ってくれないか?」
「……はい?」
彼女を宥めた後、俺はコートに顔を埋めながら彼の様子を伺った。大通りにいる彼は、大きな体を揺らしつつ、俺の目と鼻の先を通過していく。
「あの」
声に反応して振り向けば、例の彼女がさっきより厳しい表情で俺を見ていた。
「通報しますね? あなたのこと」
そう言って、徐にスマホを取り出す。俺はさすがに取り乱した。
「ちょ、ちょ、ちょ……ストップ、ストップ! 違うんだよ、怪しいもんじゃないから! あれ見て、あれ!」
そう言って、向こうに通り過ぎていった大男を指さした。
「あれ、正真正銘サンタだろ? 俺は本物のサンタに会ったら、ずっと言っておきたいことがあったんだ……これはものすごいチャンスなんだよ! だから、さっきから声を掛けるタイミングを伺っている!」
興奮気味に説明すると、刺さるような冷たい目で睨まれた。
「これが正真正銘のストーカー……やっぱり通報しないと」
「だああ! 待って待って! 早まらないで!」
俺は、110と押し始めた彼女を必死で止めた。
「分かった! 君にはちゃんと事情を話すからさ……俺の話、聞いてくれる?」
最初のコメントを投稿しよう!