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――今晩の雪は、本当に冷たかった。
僕が気付いた時には、彼女は階段の上り口の付近に横たわっていた。
ほら見て、真っ赤っか。
白く積もった雪は、みるみるうちに彼女の色へと染まっていく。
じわり、じわり、とろり、とろりと。
薄暗くて見えづらいけれど、確かな赤色が彼女の頭から零れている。
信じられない事態に、僕はその場に立ちすくんでしまった。
愛してやまない人が、こんなにも脆く簡単に壊れていくなんて。
嫌だ。嫌だ。嫌だ......!
僕はハッと息を呑み込んだ。一瞬、彼女の頭がビクッと動いているのが見えたのだ。
ここで突っ立っている場合じゃない......!
僕はすぐに彼女の元に駆け寄り、体と頭を抱えてやる。
......?
そして僕は、その小さな違和感に気付いてしまった。
彼女の頭にあるはずの傷口が、そこには無かった。
もう一度傷口の辺りを触ろうとした時、血液とは程遠い、生温かい油のようなドロっとした感触が手に伝わってきて、思わず手を引いてしまう。
僕の手には真っ赤な溶液が付着していた。
けれど、その溶液はすぐに色を失い無色透明の液体へと変わっていく。
赤く染まっていた筈の雪は、いつの間に無垢な白色をしていた。
異様な光景に、僕は思わず彼女の顔を伺う。
縦長の楕円形をした目が、こちらを見つめている。
「あぁバレちゃったね......。上手いこと君たちのように染まろうとは思ってたんだけど」
少しずつ、彼女の身ぐるみが剥がれ、正体が露になっていく。
「ねぇ、君の知ってる“彼女”じゃないみたい?」
僕は目の前に広がるこの光景を見て、異世界にでも来てしまったような錯覚に陥る。
目まぐるしく変わり続けている世界が、途端にスローモーションへ変異する。
この退廃的且つ異質で、アンニュイな雰囲気に少しだけ酔いしれてしまう自分が居た。
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