雪に染まる

4/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
――今晩の雪は、本当に冷たかった。 僕が気付いた時には、彼女は階段の上り口の付近に横たわっていた。 ほら見て、真っ赤っか。 白く積もった雪は、みるみるうちに彼女の色へと染まっていく。 じわり、じわり、とろり、とろりと。 薄暗くて見えづらいけれど、確かな赤色が彼女の頭から零れている。 信じられない事態に、僕はその場に立ちすくんでしまった。 愛してやまない人が、こんなにも脆く簡単に壊れていくなんて。 嫌だ。嫌だ。嫌だ......! 僕はハッと息を呑み込んだ。一瞬、彼女の頭がビクッと動いているのが見えたのだ。 ここで突っ立っている場合じゃない......! 僕はすぐに彼女の元に駆け寄り、体と頭を抱えてやる。 ......? そして僕は、その小さな違和感に気付いてしまった。 彼女の頭にあるはずの傷口が、そこには無かった。 もう一度傷口の辺りを触ろうとした時、血液とは程遠い、生温かい油のようなドロっとした感触が手に伝わってきて、思わず手を引いてしまう。 僕の手には真っ赤な溶液が付着していた。 けれど、その溶液はすぐに色を失い無色透明の液体へと変わっていく。 赤く染まっていた筈の雪は、いつの間に無垢な白色をしていた。 異様な光景に、僕は思わず彼女の顔を伺う。 縦長の楕円形をした目が、こちらを見つめている。 「あぁバレちゃったね......。上手いこと君たちのように染まろうとは思ってたんだけど」 少しずつ、彼女の身ぐるみが剥がれ、正体が露になっていく。 「ねぇ、君の知ってる“彼女”じゃないみたい?」 僕は目の前に広がるこの光景を見て、異世界にでも来てしまったような錯覚に陥る。 目まぐるしく変わり続けている世界が、途端にスローモーションへ変異する。 この退廃的且つ異質で、アンニュイな雰囲気に少しだけ酔いしれてしまう自分が居た。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!