金・玉・取っ太郎

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金・玉・取っ太郎

 まさかり担いで金太郎。熊にまたがりお馬の稽古。  ハイ シィ ドウ ドウ ハイ ドウ ドウ  足柄山の山奥で 獣集めて 相撲の稽古。  ハイ シィ ドウ ドウ ハイ ドウ ドウ  昔、昔、足柄山にそれはそれは元気な男の子がいました。名は金太郎。よちよち歩きを始めて、外に出て出会った獣が小熊だった。金太郎は驚く小熊に満面の笑みを浮かべた。生まれて間もない一人と一頭は、遊び相手を見つけて大はしゃぎ。とは言え、獣と人間。小熊がふざけても子供には堪った物じゃない。大泣きする金太郎。そこへ何事かと現れたのは母熊だった。泣く金太郎の側で心配そうにクンクン泣く小熊。それを見て母熊は、敵ではないと感じ、怪我をした金太郎の背中をペロペロと舐めた。金太郎は撫ぜられ落ち着き、無邪気な笑顔を見せた。それから、毎日のように小熊が金太郎を誘いにき、金太郎もそれに応えていた。  熊に舐められてから金太郎の成長は著しく、小熊とのじゃれ合いがそれに拍車を掛けていた。金太郎の体は贅肉のない筋肉も塊となり、小熊とがっぷり四つに組程になっていた。力自慢の金太郎は町に出て関取を目指した。そこにいた者は、母熊のようなふっくらした頭三つも抜け出す大きな男たちだった。如何に力自慢の金太郎もおいそれ持ち上げることはできなかった。金太郎は力負けする分を俊敏さで担うもがっぷり四つに組まれては勝ち目は少なかった。先輩たちからは「飯をたらふく食って体を作れ」と言われたが、金太郎の美学がそれを許さなかった。金太郎の美学は思いがけない旋風を呼び込んだ。男性客に紛れて若い女性の客が増えたのだ。女性客は勝敗より、金太郎の俊敏さの際の筋肉の動きに黄色い声援を浴びせていた。  強いわけでもない金太郎の人気に先輩力士たちの冷たい視線が突き刺さっていた。ある時、取り組みで僻みのぶち込みをまともに喰い転び、膝を怪我してしまった。その怪我がもとで引退を余儀なくされた。途方にくれる金太郎に手を差し伸べたのが谷町の一人だった豪商の花田勘左衛門だった。花田は金太郎の人気に目をつけ、肉体美を見せる見世物小屋を金太郎に開かせた。その目論見は見事に功を制して大繁盛。金太郎に憧れた仲間も多く集まった。  見世物小屋では若い女性が「キレてるっ」「筋肉は蜜でいいんだよ」「背中が酒蔵」「胸が尻みたい」「肩、南瓜」などの掛け声が飛んでいた。  金太郎を慕う若者がいた。名を銀太郎とした。金太郎は、朽ちていく自分よりこれからの銀太郎に熱い視線を送り、熱心に筋肉つくりに援助した。その甲斐があり、銀太郎は二枚看板のひとつにまでなった。金太郎は見せかけだけではなく、使える筋肉を目指していた。団員たちは金太郎の意志を継ぐJr.と呼ばれた。それは、Jr.たちの後世を考えての事だった。Jr.たちは金太郎の意志を継ぐJr.と呼ばれた。その甲斐あって、引退した者だけでなく現役Jr.の収入源にもなっていた。金太郎一座は、力仕事を請け負う口コミ屋に成長していた。金太郎の筋肉愛とJr.愛は、尋常なものではなかった。端正な顔立ちも手伝い絶大な人気を誇っていた金太郎を我が手にと金や色香で誘惑する女性は絶えなかったが、一切浮いた話はなかった。金太郎は、Jr.の誘惑による挫折に注意を払っていた。自ら率先し、筋肉をほぐしてやったり、悩みを聞いたりしていくうちに性欲の処理もさり気なく行うようになっていた。  悩みのある団員や好みの団員を自分の部屋に呼び出し、密かに処理を行っていた。団員たちは十歳前後で入団してくる。白い飯が腹いっぱい食えると誘われて。異性との接触が閉ざされた中では、金太郎の行いは団員たちの誰もが可笑しなことだと感じることはなく、寧ろ、目を掛けられていると思い込み、その日を待ち遠しくさへなっていた。金太郎は自分自身の股間が嫌だった。つるんとした滑らかな曲線を欲していた。その思いが通じたのか金太郎の股間は、日に日に小さくなり、体の中に埋没していった。これも熊に舐められたせいなのかは定かではなかった。金太郎一座は栄華を極め、金太郎は初老に差し掛かっていた。食事制限のせいか日に日に体調が優れなくなった。そこで一座の運営を姉と妹と昔から世話係をしてくれていたお房に任せた。   金太郎が寝たきりになると姉と妹は、団員を自分たちの好みで依怙贔屓し、何時しか団員の給与に大きな差が生まれ始めた。お房はその不具合を正そうと姉と妹に歎願するが受入れられず、あろうことか謀反人として一座を追われてしまった。  それに憤慨した一部の人気団員は金太郎の遺志を継ぐお房を頼って退団。それをきっかけに姉妹の強権政治が始まり引き締めが強化され、それをきっかけに多くの団員が退団を決意した。  姉妹の好き勝手が起因となる一座の紛争は、女性客の反感を買い、栄華を極めていた金太郎一座は衰退していくことになった。姉妹はその原因を反体制側の責任だと聞く耳を待たず、「やめたければやめればいい」と豪語していた。  巷の者たちは、金太郎姉妹を「小原庄助さん 何で身上(しんしょう)潰した。朝寝 朝酒 朝湯が大好きで、それで身上つぶした。ハア もっともだ もっともだ」と揶揄し、嘲笑った。
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