執着

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「いえ。私こそ、一夜さんの事を、その…悪く言ってしまって…ヤクザだからとか…その…」 一夜さんの名前を出したからか、真湖さんの目が一瞬切な気に揺れた。 でも、何もなかったように、それは一瞬で。 「じゃあ、お互い様って事で」 「はい」 「中とその後どう?」 そう訊かれて、なんとなく正直に答えていいのか迷う。 中さんと真湖さんの複雑な関係を知っているからか。 「…えっと、付き合ってますけど。 でも、中さんはやはりまだ真湖さんの事を…」 中さんがまだ少しでも真湖さんに気持ちがあるなら、私が邪魔してはいけないような気持ちになってしまう。 私は中さんの彼女なのに、変だと思うけど…。 「まだそんな事言ってんの?」 と、真湖さんは少し怒っているようで。 「ごめんなさい。真湖さんの事を怒らせたいわけじゃないし、一夜さん以外真湖さんは興味ないのは嫌って程この前思い知りましたけど!」 「嫌って程って…」 と、真湖さんは苦笑している。 「すみません…」 「謝らなくていいんだけど。 ただ、あの時もそうだったけど、葵衣ちゃんのその感じにイラッとする。 私に対して、中に二度と近寄らないでくらい言えない?」 「言えないです…。 私のこの感じが、綺麗事ばかりだと一夜さんを思い出させて真湖さんを腹立たせるのだと思いますけど…」 一夜さんもきっと真湖さんには自分ではない相手だとしても、幸せになって欲しいと、本気で思っていたんだろうとかは、口に出せないけど。 そう思う。 「多分、葵衣ちゃんが一夜に重なって腹立つんじゃなくて。 昔の私の後悔を思い出すのかもしれない」 「後悔?」 「あの時、ああしていれば、ってやつ? 一夜の事本当に好きだったのに、なんでその手を離してしまったんだろうって。 別れ話をした夜、別れずに一夜の事を無理矢理にでもあの世界から連れ出せば良かった。 本当に好きなら、強欲になって、相手を手放したら駄目なんだって。 だから、中の事をそうやって手放そうとする葵衣ちゃんに腹立つのかもしれない」 「…でも、私は真湖さんと一夜さんとは違い、片思いでしたし。 そりゃあ今は、一応両想いですけど」 強欲に、か。
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