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「俺は、竜道会若頭補佐佐渡一家家長の、佐渡美景といいます」
「りゅうどうかい…わかがしらほさ?…さどいっか…さどみかげ…さん」
そう反芻する。
「失礼します」
開きっぱなしの扉をノックして、一人の男性がお盆を持って部屋に入って来た。
「中君が来る迄少し時間があると思うので、お茶とケーキを用意しました」
佐渡さんがそう説明すると、目の前にフルーツタルトや紅茶のセットやらが置かれて行く。
紅茶の良い匂いが充満している。
「中さんが来るのですか?」
「ええ。中君の事で話があると貴女を誘いましたが、実際俺が話したいのは、中君。
葵衣さんには、中君を誘う為に来て頂きました。
普通に誘っても、中君は俺の話なんて聞いてくれないので」
「そうなのですか…」
なんとなく、この人は中さんにとって良くない関係の人ではないだろうか。
この人優しそうに笑いながらも、時折冷たく見える。
そして、私は半ば強引に連れて来られ、それは中さんを呼び出す為にみたいで。
普通に誘っても、中さんは此処には来ないみたいだし…。
一体、中さんに何の話があるのだろうか?
「紅茶にはこだわっているので、良かったら一口だけでも飲んで下さい。
毒なんて入ってないですから」
佐渡さんが、私の前のカップに紅茶を注いでくれる。
「…ありがとうございます」
促され、躊躇いながらもカップを持ち一口紅茶に口を付ける。
「美味しいです」
自然と、そう溢れる。
「良かったです」
そんな私を見て満足そうに笑っている顔を見ると、悪い人には見えないのだけど。
気を許してはいけない。
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