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中さんはビルを出ると、すぐにタクシーを拾う。
私も付いて行くように中さんとタクシーに乗り込む。
中さんはタクシーの運転手に行き先を告げている。
それは簡単な住所だけで、一体どこなのか私には分からない。
中さんは佐渡さんに知らされた事実を聞いてからずっと思い詰めた表情で口を開かない。
私もこうやって付いて来たけど、そんな中さんに話し掛ける事すら出来ない。
暫くすると、タクシーは止まる。
「釣りはいいです」
中さんは1万円札を運転手に渡していて、手前に居る私は先にタクシーを降りた。
中さんも降りて来ると、私なんか見えてないように近くの大きなビルに入って行く。
大理石の看板を見ると、ブルークローバー…とローマ字で書かれている。
このビルの会社の名前?
会社だけではなくて飲食店も何軒か入っている。
中さんを追うと、エントランスの受付でこの会社の受付嬢と話している。
「…アポイントメントの方は?」
「ない。社長に加賀見一夜の弟の中が来てるって言えば分かる」
「…少々お待ち下さい」
受付のその女性は内線電話で中さんの言ったように誰かと話している。
そして、暫くして
「…はい。…分かりました」
中さんの方に視線を向けた。
「確認が取れました。最上階の社長室の方へお越しくださいとの――」
中さんは話の途中、エレベーターホールの方へと歩いて行く。
私は受付の女性にすみません、と謝り中さんの後を追った。
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