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「あの、一枝さん酷いです!
中さんのお兄さんの一夜さんが中さんを嫌っていたとか本当かどうかは知らないですけど…。
なんであんな酷い事を言うんですか?!」
「じゃあ、君は中君が犯罪者になった方が良かった?」
一枝さんはゆっくりと体を起こし、乱れた胸元を整えている。
「じゃあ、わざとですか?」
わざと中さんをそうやって怒らせて、怒りの矛先を変えたの?
「いや。本当なんだよ。
いっちゃんが中君を大嫌いだったのも。
俺がいっちゃんの事で復讐される相手が中君ではないと思うのも」
「…本当に、一夜さんは中さんを…」
私には親が再婚とか腹違いの兄弟が居るとかじゃないから、想像出来ないけど。
「それより、いいの?
中君を追わなくて」
「それは…」
まだこの人に言いたい事や聞きたい事はあるけど。
口をつぐむと、中さんの後を追うように社長室を出て行く。
エレベーターホールの方へ走って行くと、ちょうどエレベーターに乗り込もうとしている中さんが見えた。
「中さん!!」
私の大声に、中さんは一度こちらを見たが、何もなかったようにそのままエレベーターに乗り込んだ。
私がエレベーターの前に来た時には、ちょうどエレベーターの扉が閉まった所。
エレベーターの階数表示を見ると、下降している。
私は近くの非常階段の方へと行き、掛け降りる。
先程、中さんが私を待ってくれなかったのは、追いかけて来るな、という意思表示なのは分かっているんだけど。
放っておけない。
中さんは、とても傷付いているから。
体力には自信はあったけど、階段を五階から一階迄掛け降りると、肺や心臓が苦しいというよりも痛い。
限界を超えた体に鞭打つように、ビルから出て早足で中さんを探す。
なんとなくビルを出て右に来たが、左だったらどうしよう…。
引き返した方がいいのか…そう思い進むと、遠くに中さんの姿が見えた。
中さんは歩道の真ん中で立ち止まっている。
すれ違う人がそんな中さんを、少し不審そうに見ている。
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