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手のない女
霊能者、と聞いて、あなたはどんな人物を思い浮かべるだろう。
数珠を持ったパーマのおばさん。結袈裟を首から下げた山伏。浄衣姿の陰陽師。もしくは、いかにも現代風なスーツを着込んだ社会人とか、少しアバンギャルドな格好をした個性的な若者とか。
少なくとも、よれよれのスウェットを着た男が出てくるとは思わないはずだ。
「あー、そっか、約束は今日だったっけねぇ。このところすっかり日付の感覚がなくって駄目だよ、引きこもりの弊害だ。……お、そこ気を付けてね、ちょっと床腐ってるからね」
いかにも今起きたばかりという空気を纏った彼は、後頭部をわしわしと引っかきながら、うはは、と笑う。あまり楽しくなさそうな、息の抜けたような声で笑う。感情がスカスカしている人だ、と思って、私は腹の底に力を入れた。
わかりにくい人との会話は、すこしだけ疲れることを知っている。
「そんじゃあ、まずは話を聞こうか。ぼくの仕事はまず、そこからだ」
彼はにたりと笑顔を作る。
私は宇多川さんの手を引いて、手前の床を言われたとおりに避けながら――少し湿ったかび臭い部屋に足を踏み入れた。
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