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不思議な首
楕円形のそれを分かりやすく表現するなら、ショートヘアのマネキンの首だ。鼻の下まで伸びた長い前髪が、顔のほとんどを隠している。
俺は首と向かい合うように席についているが、ここは自分の席じゃない。
「何しに来たの?」
唯一見える口が動き、話しかけてきた。
「これ金子君のだろ? 自習室にあったよ」
俺は手に持っている物を、首の前に差し出した。黄色と水色の縞模様のカラビナで、王冠をかぶって佇むウサギをかたどっている。
たぶん、この首は金子君だ。こんなに前髪長くないけど、今座っているのは彼の席だし、話し方や声がなんとなく似ている。
金子君は最近関わるようになったクラスメイトで、週に2回、放課後に勉強を教えている。教室で見る彼はいつも1人で読書をしていて、誰かと会話している方が珍しい。リアクションが薄く、表情をコロコロ変えるタイプじゃないので、彼との会話はいつも必要最低限で淡々としている。
「ありがとう。そこに置いといて」
そこってどこだろうと思いながら、俺はカラビナを机の上に置いた。
そして今、気まずい沈黙が流れている。前髪で隠れてるはずなのに、さっさと帰れと目で訴えられているような気がした。
「……俺さ、人に勉強教えるの初めてなんだよね。分かりづらくない?」
会話を続けたのは、決して空気を読まなかったからじゃない。
「そうだったんだ。有栖君の教え方、分かりやすいよ」
「よかった」
これはこれで一安心だけど、さっきの気づまりタイムが再来しそうで気が気じゃない。それでも帰ろうとしないのは、断じて空気を読まないからではない。
首と机の接地面あたりに視線を落とし、俺は次の話題を探していた。
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