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「有栖君は良いよね」
なんか急に褒められた。それに、金子君から切り出したのも驚きだ。動こうとしない俺に、金子君が気を利かせたのかもしれない。ごめん。
金子君は口だけを動かして、淡々と続ける。
「気さくで優しいからみんなに好かれるし、明るくてクラスの中心で友達も多いし……ヤンキーなのに頭がいい」
「待って、ヤンキーじゃない」
「金髪だしピアスもしてる」
「これは若気の至りと言うか」
「自覚してるんだ……でも似合ってるよ」
「ありがとう。でもヤンキーじゃないからね」
ちょっと否定してみたけど、本当は金子君との会話に浮かれている。首だけなので口を動かす以外にできないのだろうけど、金子君とこんな風に話すのは初めてで、心が躍っていた。
「まるで僕とは正反対だ」
1人で盛り上がる俺とは逆に、金子君の声色が落ちている。
「勉強教えてくれるのって、先生に頼まれてるから? 有栖君は優しいから引き受けてくれたんだろうけど、わざわざ放課後に付き合ってもらうこと無いと思う。教えてくれるのはありがたいんだけど、その優しさが逆に申し訳ない」
気持ちの温度差を見せつけられた今の心境は、ノリノリで踊っている最中に残念なお知らせを聞いてしまい動きが止まったような感じだ。返す言葉が浮かばない。
「僕と居てもつまらないでしょ? 僕のために時間使う事ないよ。先生には話しておくから」
「ちがっ……待って、金子君――」
彼の前髪をかき上げようと思わず伸ばした手が、そこに届くことは無かった。
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