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金子と有栖
机を叩くような音が、部屋中に鳴り響いた。席に座って舟を漕いでいた有栖が、机に額を勢いよくぶつけた音だ。
有栖は寝ぼけた頭で額がヒリヒリするのを感じつつ、重たげな目で周りを見渡した。人気のない自習室が夕陽に包まれている。その空間と静けさが、少し奇妙に感じた。
自席の机上には、数学の問題集とノートが広げられている。有栖は両肘をつき、両手で顔を覆った。
夢って精神状態の現れじゃなかったっけ? 金子君のこと、あんな風に思ってたのかな……いやでも、自分のことヤンキーなんて思ってないしなぁ。根深い所でヤンキー意識があったとか? よくわからん。
有栖は自己嫌悪すべきか自己認識を疑うべきか、混乱していた。
「有栖君」
急に声をかけられ、両膝が飛び上がった。今度は机の裏側をぶつける。
「……大丈夫?」
廊下側の隣の席に、金子君が座っていた。夢で見たクビと違い、眉が隠れる程度の前髪なので顔ははっきり見える。ただ、彼の表情筋が働いているかはまた別の話だ。さっきの「大丈夫?」は、字面では心配しているが棒読みだった。
「ごめん、金子君が居るの気づかなかった」
完全に油断していた。
俺が座ってるのは廊下側から2列目の席、金子君は隣の1列目の席に座っている。自席から窓側は全て空席だったのと、金子君の気配の無さで自分1人と勘違いしていた。
「こっちも驚かせてごめん。机にぶつかるの2回目だね」
「2回目?」
「僕もさっきまで寝てたんだけど、大きい音で目が覚めた」
おでこクラッシャーの音か。いや、俺のおでこは粉砕してない。
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