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「あの、さ……」
金子君が気まずそうに切り出す。
「いつも時間つくってくれてありがとう……なんだけど、毎週付き合ってくれなくて大丈夫だよ。どうせ先生見てないんだし……あっ、僕が嫌とかじゃなくて、有栖君の時間を奪いたくなくて」
金子君は、机に置いてある閉じたままの教科書とノートを掴んだ。
「今日はもう帰ろっか」
金子君は、机の横にかけていたボストンタイプのスクールバッグを持ち上げる。バッグを机の上に置き、教科書とノート、筆記用具をしまった。
俺は金子君のバッグにぶら下がっている、王冠をかぶったウサギのカラビナを指差した。
「それって、もらい物?」
チラリと金子君を見やる。彼は珍しく目を見開いていた。
「いや……自分で買った」
弱々しく答えながら目を泳がせる金子君。その反応を見て、俺は心の中で深呼吸した。
今こそ、核心をつく時だ。
「それってマンガの初版限定特典だよね? 俺、発売日勘違いして買い損ねたんだよ」
そのマンガというのは、まるでウサギを思わせる庇護欲をそそる主人公と、学校でなぜか女王と呼ばれている美形の、男子大学生2人の純愛を描いていて、カラビナの縞模様にある黄色と水色は2人のイメージカラーを……この辺にしておこう。
何はともあれ、マンガを知らない人からすればちょっとオシャレなバッグチャームに見えるだろう。でも俺は違う。それの正体を知っているし、もっと言えばハマっている。すなわち、金子君が常日頃バッグにつけているのが羨ましくてたまらない。
……意を決して話したけど、ここで話が噛み合わなかったらどうしよう。
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