金子と有栖

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 気づけば金子君は、いつもの無表情に戻っていた。返事を考えているのか、俺に何か思うことがあるのか、はたまた何も考えていないのか、読み取れない。  誤爆したかもしれない。  そう思い始めた頃、金子君と目が合った。 「家に1個余ってるけど、いる?」 「欲しい」  想像の斜め上の言葉が来て思考が追いつかなかったので、即答したのはあくまで反射だ。本能と呼ぶべきか。 「じゃあ今度持ってくる」 「ありがとう……なんで余ってるの?」 「姉ちゃんも同じの買ったんだけど、使ってないからもらった」 「腐ったお姉さんがいるの? ズルい」  聞く人によればゾンビを想像する言い回しになってしまったけど、相手がゾンビでも話し相手がいるのは憧れる。  うらやむ俺の気持ちをよそに、金子君は席を立った。カバンを肩にかけて、帰る気満々だ。 「どうやって渡そう……下駄箱に入れておけば確実かな」 「下駄箱は臭いからやだ」 「綺麗にラッピングしとくよ」  金子君は「それじゃあ」と会釈し、てくてくと歩いて自習室を出た。俺も急いで帰り支度を済ませて、自習室を出る。小走りで彼に追いつき、隣に並んだ。 「俺、金子君と話がしたくて自分から先生に頼んだんだよ。盗み聞きのつもりは無かったんだけど、先生が金子君に成績のこと話してるのたまたま聞こえて……金子君がイヤじゃなかったら勉強教えたいって申し出た」 「申し出てくれたんだ?」 「そう、申し出た」 「有栖君が申し出たなんて、先生から聞かなかったよ」 「恥ずかしいから黙ってほしいって申し出た」  そろそろ "申し出た" がゲシュタルト崩壊しそうなので引っ張るのは止めておこう。
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