来年のクリスマス

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来年のクリスマス

結局あの日、12月24日は大雪警報が発令されて、航と僕はそれぞれの家に日付が変わる頃帰った。 親には叱られたし弟はあきれていたし、ローストチキンは冷え切っていた。 しばらくの間、予備校のほかは外出禁止を命じられたけれど、無論ーーー。 「よお、青」 「航」 いつもの花壇のところ。雪はまだあちこちの物陰に残っている。 雪の降る街の風景を描いてみたい。 目の前にあるものではなく、記憶や想像に基づいて描いてみたいと思った。 鉛筆1本で色を着けずに、どのくらい表現できるだろうか。 航にそんな話をしたら、「いいじゃん」と言われた。 たった一言で、すべてが肯定されたように感じる。 僕は意外と単純なのかもしれない。 「俺も絵、描けたら、絶対青を描くのに」 と言うよりも、青のことしか描かねーかも。 そう付け加えるので、つい僕は動揺して線が乱れる。 「…描いてみればいい」 「俺の美術の成績、10段階評価で2だぜ?」 「別にいいじゃないか、それでも」 貸してみ、と言うので紙と鉛筆を渡してやる。 「…来年のクリスマスは」 言いかけて航を見ると、写実的というより「ゆるキャラ」のようなモノを描いている。それは僕なのだろうか、それとも、猫? 「雪、降るかな」 まだ12月が終わってもいないのに来年のクリスマスの話だなんて、笑われてしまうだろうか。 本当に言いたかったのは雪が降るかどうかの話ではない。 「降るかなあ」 手を止めて空を見上げて、航はつぶやく。 ぬすみ見る。今この瞬間、その横顔を見ているのは世界中で僕だけだという事実。 それをまた描きとめておきたい、と思う。 航は僕を振り返って、満面の笑顔でスケッチブックの切れ端を突き出す。 「できた」 「これ…人間か?」 「ひでえ」 新種の虫のような生物が描かれていた。目と鼻と口がついているのは、かろうじてわかる。 ひとしきり笑う。なぜか満足げな航。 「今ここにないものっていうなら、来年のクリスマスの絵を描くってのはどうよ」 僕は目をみはる。 「…いいかもしれないな」 それ以上はないくらいの正しい答えであり、僕のまだ形になっていなかった感情を言い当てられた思いがした。 航はなぜ、僕より早く僕の気持ちがわかるのだろう。 こういう日々を重ねていく先に、また来年のクリスマスが来ればいいなと思う。 僕は今日も絵を描く。 となりには航がいる。 終わり
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