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ポケットから手を出して、伸ばす。
なるべく、何でもないことみたいなふりをして。
ミルクティーの水色と白の缶から、青の手を俺の方にひきよせる。
精巧な線を引く、細い指を。
青はびくりと体を硬くした。
けれど拒みはしない。
「温まったら、また描けるだろ」
マフラーにますます顔をうずめて、こくりとうなづく。
まつ毛を伏せて唇を噛んでいる。頬はますます赤くなっている。
そんな横顔を見ると、胸の奥がぎゅっとつかまれた気がして、苦しくなる。それは熱くなって溶けるようで、痛みとは違う。
ゆっくりと受け入れている気配がする。俺の言葉が、となりにいる俺の存在そのものが、青に染み込んでくのがわかる。
それってすごいことだよな。数ヶ月前までは知りもしなかった相手。駅前で俺が勝手に押しかけるだけで、めしもいっしょに食ったことがない同い年の男。
俺の、軽々とバスケのボールをつかめるばかでかい手。それよりひと回り小さい、青の手。
この手で絵を描くんだから大切に扱わなきゃって思わせられる。
「青の絵も好きだけど、絵を描いてる青も好きだから、俺は」
青はもっと黙りこくる。
ただ物を言わないというのではなく、身をすくめて、全身で照れているのがわかる。
返事の代わりに、俺の手をぎゅっと握りしめた。
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