粉雪

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手をつなぐ。 それは言葉にすれば突然だったかもしれない。 たまたま僕ではなく航から手を伸ばした、それだけのことかもしれない。 そのくらい自然で、必然だった。 少し驚いたけれど。心より体が。 航の手は温かかった。ミルクティーよりもずっと、熱かった。 乾いてざらざらしていて、でも内部からしっとりと熱を帯びている。 包まれていると安心したし、航の言うとおり本当に幾らでも絵が描けそうな気がした。 僕は何を言っていいのか、言うべきなのかわからず黙る。 道行く人の服装も沈んだ色が多く、木々の葉も落ちて、街はすっかり灰色だ。 イルミネーションは、明るいというより暖かい色だった。 「…意外だな」 僕は航の真似をして、思ったことをそのまま口に出してみる。 「人が人と手をつないだくらいで、こんなに満ち足りた気持ちになれるなんて」 口に出した後でなにやら気恥ずかしくなったので、僕はマフラーに顔を埋める。 航は少し目を丸くして僕の言葉を聞いて、やがて振り向いた。 「人、っていうか、俺だよ」 「………?」 何だ? 「人と人、じゃねえよ。青と俺だからだよ」 今度は僕が目を見開く番だった。 航は握った手に力を込めて、言葉にも力を込める。 「俺は青じゃないとやだし。青が青だからいいんだし」 「…よくそんな恥ずかしいことを口に出せるな」 こそばゆくて、僕は消えてなくなりたくなる心地がした。 「だってほんとのことじゃん」 本当だった。至極単純に。 「クリスマスプレゼント」 え、と航は驚いた声を上げる。 スケッチブックを3枚切り取っただけの紙は、決して見栄えが良いとは言えない。包装したり額におさめる時間はなかった。 受け取ってくれるだろうか。 ありがとう、と言って両手で持って視線を落とす。 驚きが顔じゅうに広がっていくのがわかった。 「俺じゃん」 「…そうだよ」 「いいの!?」 今の今まで、航にどう思われるか考えていなかった。おかしなことに。 プレゼントを口実にして、航を描きたかったのかもしれない。となりにいる存在を、紙の上に留めておきたかったのかもしれない。 もう一度、俺じゃん、と言って描線を骨張った指でたどる。 そのしぐさを見ていると、やたらどきまぎした。 それから、ばっと顔を上げる。 「でも俺、青に何も用意してない」 「いらないよ」 航をこんなに喜ばせることができるのは少なくとも今のところ僕だけだ、と自惚れてしまいそうになる。 だからもう充分だった。 お返しもお礼もいらないほどに。 「待って今なんか考えるから!」 重大事のように必死に言うのがおかしくて笑ってしまう。 「いいってば」 「でも!」 押し問答はしばらく続く。 そんな航と僕の間に、ひらひらと何かが踊るように降りてきた。 「…あ。雪」 「雪だ」 空を見上げると、ひらひらと雪片が舞い落ちてくる。 航にも、絵に描かれた航にも降りかかっては消えてゆく。
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