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雨が雪に変わる頃
知り合ったのは約3ヶ月前。
9月半ばで、あの頃はまだ、暑かった。
青は半袖のワイシャツから適度に筋肉のついた腕を出して、スケッチブックを抱えて花壇の縁に座っていたんだ。
俺はと言えば、スポーツドリンクのペットボトルをくわえて、たらたらと足を引きずりながら帰る途中だった。
部活の帰りで疲れていて、家にとっとと帰りたいのとまだ帰りたくないのと、気分がちょうど半々くらいの妙なテンションだった。
あの時なぜ青に声をかけたのか、自分でもよくわからない。
なぜだろう。
俺はあのとき見えたひとつひとつのことを、それから、目には見えなかったものも、思い出してみる。
たぶん、青のまわりだけ空気が違っていたから。
攻撃的ではなかった、けれど張りつめて繊細な空気は、その透き通ったまなざしや意志をもって動く指先から生まれていた。
見た目はただのちょっと細身の、紺色のブレザーとスラックスの制服を着た高校生なんだけど。
「何してんの、そんなとこで」
今思えばぶしつけだったかもしれない。挨拶もしないで、いきなり見下ろすような位置から話しかけたのだから。
青は大きな瞳をぐりんと俺の方に向けると、ただひとこと言った。
「絵を描いてる」
答えると、まるで俺なんか存在しないかのように再び手を動かし始めた。
それが、始まりだった。
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