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再び新快速に乗って四駅、俺たちは地元の駅で別れた。
ひとりの帰り道、俺の胸は温かい思いが占めていた。少しでも竜崎さんと過ごした余韻に浸っていたくて、俺は自転車を漕ぐことなく押して歩く。
「はぁ……。さっきまでのことって、夢じゃないよな……」
俺は今日確かに、竜崎さんと手をつないで歩いた。キスをした。そして抱き合った。
「ってことは、俺たちめっちゃ恋人じゃん」
そうひとりごちた時、ムスコがむくむくと目を覚ます。俺は軽く股間を押さえる。
いっちょ前に存在を誇示しやがって……。ってか、さっき竜崎さんとあんなことやこんなことをした時には無反応だったくせに。……えっ、それは宿主である俺がテンパりすぎていたから? 確かに、それはごもっともな説です。
ってか、そんな場合ではない。
「ちょ……。こんなとこでやべぇじゃんかよ」
いくら陽は落ちたとはいえ、まだ人も多く行き交う時間帯だ。こんなところでたとえズボンの中であっても、ムスコを野放しにしようものなら犯罪行為になってしまう。
俺は仕方なしに自転車にまたがる。何だかものすごい股間の違和感が俺を襲うが、一刻も早く帰宅したい。そして一刻も早くムスコを解放して……。
だが、いざ帰宅した俺を待ち受けていたのは、母親のあきれ顔と開け放しにしたままだった自室の凍えるような寒さだった。
一気にムスコの元気がなくなったことは、言うまでもない。
<了>
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