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自転車で待ち合わせ場所の駅前へと向かう。大急ぎで自転車置き場に停めて、駅前広場の噴水に走る。
遠目にもわかる竜崎さんの姿。うつむき気味で、路面に視線を落としている竜崎さん。
まず、全体の雰囲気といつもかけている眼鏡が視界に入ったことで竜崎さんだと認識でき、直後にずきんと胸が痛くなった。俺はしばらくその場から動けなかった。
いつもはふたつにしばっている髪を下ろしている竜崎さん、初めてその私服姿を見る竜崎さん。コートにジーンズ姿の竜崎さん。チェックのマフラーで下ろしている髪がもこっとなっている。
俺は恐る恐る竜崎さんに近づいた。そして声をかけた。
「ご、ごめん。待たせたね」
振り向いた竜崎さんに、今さらながら俺は恥ずかしくなる。俺、こんな普段着で来てもよかったのか……。
だが、竜崎さんのはにかんだ笑顔がかわいくて。
「あたしの方こそ、突然だったのにごめんなさい。でも、増井くんが来てくれて嬉しい」
ふと、竜崎さんが手にしているカバンが目に入った。そこには何冊もの参考書と思われる書籍。一応進路の決まっている俺とは違い、竜崎さんは年明けが入試本番だ。大詰めを迎えた今、気の抜けないはずだが。
「竜崎さん、勉強はいいの? 年が明けたらすぐに共通テストなんでしょ?」
「大丈夫だっていうめどが立ったの」
だが、そう言った竜崎さんは少しだけ寂しそうで……。
「何かあった? 俺でよければ聞くよ?」
「本当?」
俺はこくこくとうなずいた。
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