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「模試でね、S判定だったの」
場所を変えたハンバーガーショップ。俺も竜崎さんも一番安いセットだ。
俺はハンバーガーをかじってから問いかけた。
「すごいじゃん。それってもう合格確定ってことでしょ?」
「うん。そうなんだけどね」
ドリンクを一口飲んでうつむく竜崎さん。俺は、店員に頼まないともらえないケチャップを開け、ポテトの箱につまみ出した。
「ほら、ケチャップつけて食べてみて。美味しいから」
俺がポテトをケチャップにつけて食べてみせると、竜崎さんがまねをする。俺はそれだけで嬉しかった。
竜崎さんが話し出すのをじっと待った。志望校がS判定で何を悩むことがあるのかと。俺はその理由が知りたかった。
「あたし、行きたい大学はここから少し遠いの。すごく遠いというわけではないんだけど」
「うん。俺もだよ」
それは俺も同じ。ほぼ進学先として確定している専門学校はここから少し遠い。
「増井くんも?」
向かい合わせで座った竜崎さんが俺のすすめたポテトの食べ方をしたあと、身を乗り出した。
「うん、俺も。それにきっと入学したら忙しくなるはずだから、ひとり暮らしすると思う」
「そうなんだ」
よくよく聞くと、ふたりとも目指す進学先は同じ都市だった。とはいえ、俺も竜崎さんも同じような田舎町在住だ。進学先が同じ都市なのは偶然でも何でもない。
「それで、何か俺に言いたいことがあったんじゃないの?」
そう問いかけた俺に、竜崎さんはハンバーガーをかじったあと、ホッとしたような笑みを浮かべた。
「ううん。それじゃああたしたち、卒業後も今のままの関係を続けられるね」
卒業後。バカな俺は、そこまで気を回すことができなかった。
今は冬休みだが、三学期になるとまた同じクラスで過ごせると思っていた。確かにそうだが、三学期なんて想像以上に短くて、すぐに卒業してしまう。俺が竜崎さんと同じクラスでいられる時間なんか、もうカウントダウンに差しかかかっている。
「どうしたの?」
黙り込んでしまった俺に、竜崎さんが優しく問いかけてくれた。
俺は言葉を絞り出す。
「いや、もうすぐ卒業なんだなって、思ったから……」
しゅんとしたままの俺に、竜崎さんが再び微笑みを投げかけてくれる。
「じゃあ、ちょっと早いけど、ふたりだけで卒業旅行しようよ」
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