先生たちの特別な一日

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先生たちの特別な一日

 実は、この日は先生たちにも特別な一日だった。  最後の生徒がトナカイの馬車で出発した後、  校長先生が杖をパッとふり、食堂の装いを一変した。  天井のつららはそのままにツリーはシックな深緑色の本物の木に代わり、控えめに普通の白い蝋燭が飾られた。ただし、ろうそくの一本一本はとても太くて長いものだ。  食堂のテーブルもすっかり片付けられ、円形のテーブルが暖炉で巻きがパチパチと爆ぜる食堂の一角に置かれた。  先生たちが全員席に着くと、校長先生が 「皆様、今年も大変お疲れさまでした。生徒たちが無事に年末を迎えられたのもすべての先生方のおかげです。」  と、心のこもった挨拶をした。  テーブルについた先生方は校長先生に大きな拍手を送った。  そして、テーブルの真ん中には黄金色に輝くシャンパンの入ったグラスがフワフワと浮いている。  美しく内側から光を発する魔法の木の実がそれぞれの先生の手元に置かれた皿に数粒ずついれられている。魔法の木の実は魔法学校の森に生えている木になるのだが、森の奥深くにある為なかなか拾いに行くことができない。  10年に一度しか実がならないが一度木から落ちた実は腐ることはない。  校長先生は他の先生が生徒と授業をしている間に自分の仕事の時間をできるだけ削って、何度も何度もこの魔法の木の実を拾いに行っていたのだ。  魔法の木の実は一つ食べると10年間年を取らないし、とても元気がでる成分が入っている。  校長先生は、今いる先生方になるべく長く、この魔法学校で生徒たちを押せてほしいとの願いを込めてこの木の実を先生方へのプレゼントにしたのだ。 「まぁ、校長先生。こんなに沢山大変だったでしょう。」  先生方は口々にお礼を言い、校長先生も笑顔が絶えなかった。  そう、先生方にとっては、この日は一年に一度、校長先生が先生方にお礼を言う特別な一日なのだ。  そして、先生方はやはり校長先生にお礼を言いたくて素敵なプレゼントを用意してあった。  先生方は校長先生にフワフワの軽い糸で織られた素敵なマントをプレゼントした。この軽い糸はやはり学校の森に住む七色の羽をもつ特別な蝶々の繭からしか取れない糸で、蝶々が羽化するときにも綺麗に抜け出すので繭が汚れることはない。繭の色は美しく光沢のある紫色だ。そして、水を通さず、冬は暖かく、夏は涼しく、一年中快適な温度を保つことができるようになっている。  大変細いので紡いで長い糸にするのは難しいのだが、魔法が得意な先生たちは眉をたくさん集めて一年をかけて糸を紡ぎマントを織り上げたのだ。  校長先生は美しい紫の光沢のあるマントを身に着けて 「なんて軽いんだ。これは来年のよそ行きのマントじゃな。」  と、大変うれしそうにマントを着て、先生方に向かってクルリと一回りして見せた。  生徒も先生も心から暖かくなって一年を終わらせるのがこの魔法学校の毎年のお約束なのだった。  さぁ、大きなろうそくが全て溶け、シャンデリアの光だけが天井で瞬く時間になった。先生方もそれぞれの自宅に箒に乗って帰る時間だ。  来年、みんなが集まってまたにぎやかな毎日が始まるまでの、魔法学校の食堂のお休みの時間だ。  食器は既に皆綺麗に自分で洗われて、食器棚に収まっている。  テーブルや椅子も自分たちで綺麗に片付き、食堂の隅にかたまってあくびをしている。  魔法学校の特別な一日は静かに終わりを告げた。 【了】    
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