とんでもないスタート

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「歩実ちゃんからRINEが入ったら教えて。 渡辺さんに連絡するから」 母はそれくらいしか言わなかった。 俺が相当にショックを受けていることを察してくれたのだろう。 情けないかな俺は、薄暗い自室のベッドに寝転がって呆然と天井を見上げることくらいしか出来なかった。 身代金目当ての誘拐でないにしても人攫いなんてあるだろうし……もしかしてひょっとして、異人さんに連れられていっちゃった、とか……?! いやいやそんなまさか、時代錯誤も甚だしいか。 事故……いや、事故ならニュースになっているだろう。 それこそもしかしてひょっとして、怪しげなロリコン野郎に捕えられて監禁、とか……?! まさかとは思うけど、異人さん説よりは有り得そうな気もする。 この推論を否定出来る情報なんて、何もないのだから。 「くそっ……なんだって、こんな事に……!」 俺がついていれば。 どうにもならない、どうにも出来ないと分かっているのに、そんなことを考えてしまう。 俺が傍にいてやれば、彼女をそんな目になんか遭わせなかったのに……! ―――へえ~ぇ。 大した自信だヌ なんとも唐突に。 何処からか声がした。 「は? ……え、何? ヌ……って」 ―――ヌぁーっ、なんでそんな語尾なんか気にするヌ? そこは全然聞き流してくれていいヌぅ! 俺の呟きに合わせて声が怒っているようだ。 不気味なはずなんだけど、その前に謎の声の主の姿が視認出来た。 どこぞやの魔法少女なんかの漫画に出てくるような、小動物くらいの大きさの謎の妖精みたいな生命体。 体は淡い緑色系で、丸っこい耳、目の周りだけ色が違って、小さいリュックサックを背負っている。 そして特徴的なぶっとい縞模様のしっぽ……イメージでいうところタヌキモチーフの、それこそナリは喋るヌイグルミのようだ。 ヌイグルミと違うのは、表情もコロコロ変わって動く、ということ。 早い話がその見た目の容姿ゆえに、不気味さを感じる前に苛立ちが先にきた。 「なんだ、お前……?」
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