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家がお向かいということで『幼馴染』の同級生の彼女、渡辺 歩実(わたなべ あゆみ)から告白されたのは中学一年生の時のバレンタインだった。 最近可愛くなってきたなぁと思いながらも、年相応に男女のなんとなくの距離感を置いて疎遠になっていたのだが、その日から俺たちは『恋人』という関係に昇格した。
恋に部活に勉強に忙しい中学二年生を終え、俺たちは中学三年生に進級する。 なんと初めて彼女と同じクラスになれたのだ。 部活では最高学年、良き先輩として責任のある立場となり、学校行事では修学旅行なども控えている。 受験生といえども楽しいことだって目白押しだ。 今年はそれらを彼女と一緒に目一杯楽しむんだ―――俺は、そう信じて疑わなかった。
それなのに。
「……転校……っ?!」
ゴールデンウィーク明け、彼女と一緒に登校中のことだった。 朝、いつものように彼女の家に迎えに行った時から、彼女がやたらどんよりと落ち込んでいると思ったら。 学校が近づいてきた頃になって、彼女はようやくその理由を語り始めたのだ。
「……うん。 ほら……私のお父さん、アレでしょ。 だから……」
彼女のお父さん。 今何かと話題になってきているお笑い芸人『ヌードール』のボケ役、芸名は面堂 太郎―――渡辺 篤郎だ。 このヌードールはコンビ仲がいいことでも有名で、老若男女問わずに好感度も高い。 最近は、ゴールデンタイムにもテレビでよくお目にかかる。 彼女のお父さんは最早全国区の知名度で、日本の家庭のお茶の間に笑いと楽しい時間を届けているのだ。
「……出張が多くて、かなりしんどいらしくてね。 進学はやっぱり東京になるみたいだし……中三の後半になってからだと色々厳しいでしょ。 だから、なるべく早いうちに東京に移っておきたいって」
「そっか……」
しばし言葉を失ってしまった。 なんというか……彼女が突然に違う世界の人になってしまったような、そんな感じがした。 一般人の俺なんかが手の届かない、元々住む世界が違ったんだというような。
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