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しかし彼女はそんな俺の気持ちとは裏腹に、じいっと俺の顔を見つめてきた。 くうぅ、改めて凝視されると自分の彼女だというのになんとも照れてしまう……ちくしょう、やっぱり可愛いな!
「え~……『そっか』だけ……?」
「いや、だってさぁ……」
「えぇえ~……めちゃ和み君なら。 『離れていても心は一つさ』だとか、『俺たちの心はそれこそ、ゼロ距離ならぬマイナス距離だろ』とか」
「いやいやいや、マイナス距離って?! それめり込んでるんじゃないのか?!」
「『儂のハートを鷲掴み』とか『あいにーじゅー そぅ 愛に自由』とか」
「いやいやいや、俺にそんな駄洒落とかラップ調を求めるのか?! ハードル高すぎだろ?!」
「とにかく、ダイワ君ならそれっくらい言ってくれるかなぁなんて思ってたのにさぁ~……」
彼女は、未だに俺の名前を呼ぶことに抵抗があるらしい。 俺の名前は山本 大和(やまもと ひろかず)だが、『ひろ君』などと呼ばれたことは一度もない。 彼女いわく、その呼び方では個性が無くて嫌だとか。 人の名前を呼ぶのに、個性とかってなんなんだ……。
「む~……私だって転校なんかしたくないもん! 一緒に卒業式を迎えて、カーズーの第二ボタンをむしり取って奪いたかったもん!」
いやそんな、むしり取るな……彼女になら、欲しいと言うならなんの躊躇もなくやるのになぁ。 言ってるうちに頬をぷぅっと膨らませた彼女の頭を軽くぽんぽんと触る。
「今の世の中、RINEだってあるんだし。 いくらだって話せるだろ。 今生の別れって訳でもないんだし」
「……浮気しない?」
「俺が、そんなに器用と思うのかよ」
「器用っていうか……ヒロリンってば無自覚で天然タラシだから。 世の中の女子がほっとかないんだってば」
そのなんだかよく分からない不思議ちゃんな天然モードに突入しない限り、彼女は外見込みで相当可愛いということに彼女自身が気がついていない。 むしろ、世の中の男子はほっておくはずがないのだが。
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