4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
001
スマホの青い鳥から囀りが聞こえる。終わりと始まりを告げる合図だ。私はもう一度スマホを強く持ち、深呼吸をする。
大丈夫。大丈夫。もう私は大丈夫。
そして最後の挨拶を言うために、玄関前で一度だけ振り返った。
「さよなら、母さん。私はもう、あなたの奴隷でいるコトを辞めることにしたの」
小さくまとめた荷物だけを手に持った。数日分の服、充電器。仲間がいれば、あとは何を捨てても、もう後悔はしないと決めたから。重い過去はみんな、ココに捨てていく。
そうこの人……母も一緒に。
「奴隷だなんて馬鹿じゃないの? だいたいあんたが一人でなんて、今更生きていけるわけないでしょ。親を捨てる子の方が、よほど悪魔だわ! この親不孝者!」
「……そうね。そう思いたいなら、もうソレでいいよ。何を言われても、もう私はあなたと関わらない。私はもう、あなたに怯えてた小さな子どもじゃないから。それにもう、大切な仲間もいる」
私はスマホを振って、母に見せた。
「あんたそれ……。それのせいだよ! そんなSNSなんておかしなものを始めたから、頭までおかしくなったんだ。本当にいい子だったのに。わたしだけの言うことをちゃんと聞く、いい子だったのに!」
「あのね……、私はあなたにとっていい子になるように、ずっとずっと頑張って来たのよ? あなたがそういう風に、私を育てられてきたから」
「だったらなんで」
「なんで? そうだよね……。分かるはずないよね……。何度も言うよ? 私はあなたの奴隷じゃない。やっとそのことに気づくことが出来たんだもの」
「‼」
激高した母が、言葉とも言えない大きな声を上げた。そして台所にあったモノたちを床にたたきつける音が、部屋の中に響き渡る。
いつもならこんなに母が暴れる前に、私が折れて謝っていただろう。しかし今はもう振り向かない。そういう約束だ。ココから、この地獄から抜け出すためには、迷ってはいけないから。
「さよなら、母さん。もう二度と会うことも、連絡もしないよ」
走馬灯のように流れる今までの記憶を思い出しながら、私はあの人へと繋がる扉を開けた。
やっと終わる。
ううん。たぶんここからが、私としてのスタートだ。
今度こそ一人の人間として生きるための――
最初のコメントを投稿しよう!