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魔族の子供だったリオは、毛が何度も生え変わるごとに体格も見た目も年を取っていた。勝手に拾ってきた割には反省の色がないアエスは人間語をリオに教え続けたことにより、野菜を売る販売担当に任命されたのだ。
アエス以外の人間に対して慣れるまではそう容易くはなかったけれども、一度心を広げれば、翼を広げて高く飛び立つ鳥のように町の人々と打ち解けていった。
リオ目当てのお客もいるほど、耳と尻尾が生えていても美貌の顔立ちに見惚れて「また見たい」と町娘たちがわんさか野菜を買いに来る。
野菜が代わりかの売れるのは少々、農家の息子には悲しい話である。唯一の野菜目当ての親世代がいるお陰で野菜を育てるというやりがいを感じる。
太陽の光を浴びながら帽子をかぶり、トマトの収穫にいそしむアエスのところに町娘の一人が来た。はぁはぁ、と息を切らして呼吸もままならない状態で来るから何事かと近寄る。
「り、リオさまがーーー」
「リオがどうした」
「あ、はぁ、はぁ」
リオという二文字に対して、反射的に反応したのアエス。だけれど体力の消耗とカラカラな乾いた口の中では話すものも話せない町娘。
すぐさまアエスは、農園近くの水道を捻りコップに水を入れた。それを渡して口の中を潤い保たせる町娘。ごくんごくんと喉を鳴らす。
ようやく話せるようになった町娘は、動揺を隠さずにこう告げた。
「リオさまが、魔族らしき族に連れ去らわれた」と。
突如として、リオの身柄を魔族らしき族に奪われて血の気を引くアエス。その代わりにぷつぷつと、怒りを湧き上がる。
顔真っ赤にして近くにある使い古された鍬を持ったアエスの姿に驚いた町娘が引き気味だということに気も留めない。
「ありがとう」
ぽつりと独り言のように町娘にお礼を言った。
「え?」
「今から、この俺がリオを取り返しに行く!!」
完全無視した感じで言い放った、リオを助けると。
お礼を言ったことすら聞き取れなかった町娘を残して、アエスは走り出した闘牛のように暴走し出す。
幸せな日々をたった一日で魔族らしき族に脅かされたことに腹立たしいアエス。今日は、どの日よりも大事で特別な一日なのだ。
アエスがリオを拾った特別な日、記念日。そうまたしてもアエスが勝手に決めた記念日だ。
ーーー待ってろ、リオ。今すぐ助けに行くからな、怖い思いなんかさせない。
使い古された鍬一本を手に持ち、リオを助け出すために森奥深くへと走り出した。生えている草木が向かってくるように見えて鍬で力強く切り裂く。
これも全部、リオを助けるために動き出した足が止まらないのだった。
「ただいまーーー」
その頃、置き去りにされた町娘はアエスのリオへの愛に圧巻されて立ち尽くしていた。聞き覚えのある声が近くで音を鳴った時、目を覚ます。
「り、リオさま?? 一体なんでここに・・・・・・」
「え? 里帰りしてきたから帰ってきたんだけど」
「里帰り? わたくしはリオさまが連れ去られたと聞いたのですが・・・・・・」
「変な勘違いだね、それにしてもアエス?」
なぜ町娘が売り場である場所からわざわざアエスたちの家にいるのかという理由をすっ飛ばして、アエスの居場所を聞いた。
「へ? あー! アエスはーーーー」
次々とどんでん返しが行われた町娘は、リオの存在にも驚いた。なのにアエスの存在を思い出し、さらに空いた口が塞がらない。
一部始終の話を聞いた町娘から聞いたリオは、頭を抱えながら呆れていた。
「アエスは全く。特別な日だと早く帰ってこいと言ったものの、まさかの勘違いで山奥に行くなんて、ほんと可愛い人だ」
呆れながらも、頬を緩ましながら言い放つリオ。その表情を眺める町娘は見惚れるどころか、何かに目覚めそうになっていた。
リオの尻尾がふりふりと動いて、挙句の果てにハートを描かれていては他の町娘たちも諦めるしかないみたいだ。アエスとリオの純愛を感じる町娘は胸に手をあてた。
アエスを追うようにリオは、魔族の特性である聴覚と羽を広げて飛び立つ。
まるでそれは、アエスがリオをお持ち帰りして嬉し泣きした気持ちを再現したようにーーーーーー
完
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