福袋の中身

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一年の終わりの物寂しさと 新たな年のはじまりの期待 その両方でどこか落ち着かない またこの季節がやってきた。 私は自分の部屋にたどり着いて、早々に両手いっぱいに抱えた袋たちを放り投げ一息つく。 「よし、人気店はおさえたな!」 凄まじい戦利品の数々だ。 有名ブランドの福袋、コーヒーショップの福袋、はずれなしのどれもかわいい雑貨屋の福袋、エトセトラ。 まずはどれから開封しようか。 わくわくが止められない まあ、どうせ売れ残ったものを詰めてるだけで 本当はお得でもなんでもないよ て水を差してくる人もいるけど 私はそうは思わないし、自分が楽しければそれでいいのだ。 さてさて 「わっ、これほしかった奴……!え、うそ、単体でも6千円するよね」 シンプルなデザインで使い勝手のよさそうなワンピース。 あのとき買わないでよかった……私はガッツポーズをきめた。 新年早々一人で福袋にテンションあげるなんて寂しい人と思われるかもしれないが、ちゃんと友達と初詣のあと、色々な駅に降りて狙ってた福袋を集め、解散したあとメールで戦利品の結果を報告しあう流れだった。だから、なんの言い訳かしらないけど私はべつに寂しい人じゃないんだぞ。 中身をだいたい確認し終わった頃には、外は真っ暗になっていた。 そんな暗闇を見せる 窓は、凍てついて白くなっている。 「ふー……じゃ、片付けようかな」 その時だった。 部屋の隅っこに、見覚えのない青い袋が落ちていた。 「?」 福袋のひとつだとおもう。 でも問題なのは店のロゴがなにも入っておらず、たしかにたくさん買ったが、本当にどこの店だか思い当たらない所が、奇妙に感じた。 「3軒目にまわった辺りかな?んん?」 包装が地味なのも確かにあったような 食べ物系?でもそれはこっちだし…… やっぱり、これは知らない。 「…………」 持ち上げてみる。 袋は他の福袋に比べて一番大きく、ズシッ……と重い。その重さ、形は、たとえば本とか人形とか服とか、思いつくものどれにも該当せず なにも想像できなかった。 ただただ重い。 いや、はやく中身を開けて確認すればいいだけの話なのだが 「……そ、そうだ美恵に聞いてみよ」 私より記憶力のいい 友人なら青い袋の正体を知っているはずだ。 一回、ニ回 三回目でつながった電話。 出たのは美恵ではなく、美恵の母親だった。 『梨花ちゃんかしら? ごめんなさいね今、美恵階段から落ちて入院したのよ 新年早々慌ただしい子なんだから……』 「え?」  『あまり心配しないでね……そんなひどい骨折じゃないから ああ、丁度聞きたいことがあったの 青い袋てなんだかわかる?美恵がうなされてずっと言ってるのよ 部屋には確かに 小さい……手のひらサイズくらいのね 開封済みの青い袋があったんだけど 何も入ってないのよね なにか知らない?』 私は振り返り、部屋の中央に放置された 青い袋を見た。 「し……知りません、ごめんなさい」 美恵のことが心配なはずなのに、早々に電話を切ってしまう。 「まさか……ね」  私は少し考えて、青い袋をそのままゴミ袋に包み、厳重に捨てた。 ……間違えて身内が開けないように。 「青い袋……青い袋は駄目……」 手のひらサイズで階段から落ちてしまうなら この上半身が隠れるほどの大きさの袋では なにが起きていたんだろう。 あれは厄袋だったのだ。 たくさんの福袋にまぎれて、中身の見えないソレは、誰のもとにも、そして誰も気づかぬ間に きっと、そこに 現れる。 end
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