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  「やあ。やっとお目覚めかな、山上くん?」 「ん……あれ、……とうじょうさん?」  ぼんやりした表情はまさに寝ぼけ眼そのものだった。  昼寝から目覚めたばかりの子どものそれと完全一致する。 「とうじょうさん、なんだか、いい匂いがしますね」 「いい匂い? まあ、風呂から出たばかりだから」 「おふろ……そうか、おふろ……」    相手が年下の新人ということで、油断していたのがいけなかった。 「えっ、ちょっ、なん……っ!」  伸びてきた彼の両手が、覗き込む俺の首を思いがけず捉えた。  酔っ払いの寝起きとは思えない程の強い力に引き寄せられた俺は、そのまま受け身を取れずなすがままとなり。  体勢を崩した先は、ソファに横になった彼の体の上だった。 「おい、ちょっと、山上くんッ?」 「へへっ……やっぱりそうだ。とうじょうさん、いい匂いしますね」 「こら、おい、離しなさい。俺は男であって綺麗なお姉さんじゃないって」 「とうじょうさん……オレ、すきです……」 「えっと、だから」  おいおいおいおい何だこれは。  誰かと間違えている? いや、“とうじょうさん”と言っているし、この場に“東條”は俺しかいない。彼がそっちの人間。いや、そんなまさか。これまでの経験上、そのテの場合は一目見た瞬間に察するものが間違いなくある。  ならば、泣き上戸に加えて抱き付き癖があるってことか? 「とうじょうさん……ぅん、……ん」 「……」  動揺している俺をよそに、彼は抱き付いたまま二言三言呟いてから再び寝息を立て始めた。  その顔はなんとも幸せそうであり、馬と鹿のようであり。 (何なんだ、こいつ……)  彼の腕からどうにか抜け出し、立ち上がったままにその寝顔を見下ろした。  寝たということは、朝まで託児所の開設決定ということだな。  何も掛けるものがないソファの上で一晩寝たことで体調でも崩されてしまっては。そう考えると状況として更に面倒事が増すような気がして、再び重い体を抱えて寝室へと連れて行った。  着ている服は、そのままでいいや。いちいち着替えさせる必要もないな。  広いマットレスでゆったりと寝たいが為に愛用しているダブルベッドに、まさか男と二人で寝ることになるとはと溜め息をつく。  時計はもう日付が変わっている。自分ももう休みたい。 「…………寝るか」  いつもの定位置よりも随分端に場所をズレて、自分の体もマットレスに横たえた。  今日はもう店じまいだ。また明日起きてからにしよう。  一気に押し寄せてきた眠気のお陰で、その後すぐに意識を手放した。
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