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「ん? どうかしたか?」 「な……っ、ぇ、はだかッ」 「裸? ああ。俺、寝る時はいつも裸なんだ。何も着けずに寝る方が解放感もあって気持ち良いからね。しかし、……っ、イテテ」  昨日酷使した肩と腰に手をあて、労るようにそれぞれの筋肉を擦った。  日頃から体造りはしているものの、やはり人間一人分の負荷は程々にキツイ。次の休みにメンテナンスをしなければ。 「しかし、キミも無茶させるよね」 「えっ」 「俺はキミより歳を食っているんだから、こういうのは控えてくれないと」 「こ、こういうの……」 「あと、急に抱き付いてくるのもいけないな。言うことを聞かないから、お陰で腰が潰れるかと思った。次はもう少し加減するように」  酒は飲んでも飲まれるな。警察が発信するような文言でも使われる忠告だ。  しかしまあ、気分を悪くして吐かれなかっただけマシと言うべきか。  今回は俺も悪かったし、その償いに一晩面倒を見たのだからお互い様ということで水に流そう。  とりあえず、彼の前で素っ裸で居続けるわけにもいかないのでクローゼットの中から下着を取って身に着けた。  せっかくなのでコーヒーでも淹れてやるか。椅子に掛けていた羽織りを掴んで寝室を出ようとした時、不意に腕を掴まれた。 「東條さん。すみません、オレ……」  彼の声は打って変わって神妙なものとなっていた。 「オレ、東條さんにとんでもないことを……、なんとお詫びをすればいいのか」  ん? なんだ、どうした?  聞こえてくる発言があまりにも深刻な雰囲気を醸し出していたので、俺は自然と首を傾げて彼を見た。 「お詫び? って、別にいいよそんなもの。若い頃には誰だって一度は通る道なんだから。俺も昔やったことあるし」 「ヤッ……! なら、オレ、責任取ります!」  彼の両手が俺の腕を掴み直して、至近距離まで迫られた。  責任? 仕事を頑張るということか?  やけに真剣な彼の表情に、咄嗟に言い返す言葉が出てこなかった。  決意を新たにやる気に満ちた後輩の宣言には、何と応えてやるのが最善だろうか。ひと通り考えてみたが難しい言葉は使わない方が良いかと思い、気を取り直して彼に向き合った。 「まあ、よろしく頼むよ山上くん」  これが一番シンプルで分かりやすいと思う。  話がまとまったところで俺は彼の両手を腕から外し、コーヒーを淹れる為にキッチンへ向かった。  この時、俺は分かっていなかった。  この会話が如何に噛み合っていなくて、自分が行った返事が彼にどのような意味を与えてしまったのかを。  “責任を取る”  “よろしく頼む”  彼との縁は、勘違いから始まったのだった。
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