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* 5 *
「明日は八時に迎えに行く。長丁場になるだろうから、今日はしっかり休むように」
「ハイハイ、承知しました」
後部座席から車を降り、送ってくれた白鳥へヒラヒラと手を返す。
いつもは自宅マンションの前に横付けしてもらうが、今日はこれから予定がある為、街中での途中下車。
予定と言っても仕事ではなく、私用だ。
いや、ある意味これも『仕事』の一部なのかもしれないが、報酬が発生しない故に一応『私用』にしておく。
現場から直接来てはいるものの、今日は上から下まですべて私服だ。
個人的にあまり帽子は好きではないが、外を歩くには仕方がない。
サングラス越しに見る視界は裸眼で見るより不自由で、ビーチや雪山以外の場所では本当は身に着けたくないのが本音だ。
「まったく……、連絡先なんか教えるんじゃなかったな」
手にした端末に目を落とし、大きく一つ息を吐いた。
表示されているのはメッセージアプリの会話画面。相手は先日知り合った、事務所の新人である山上翔琉だ。
“東條さんにどーーーしても渡したいものがあるんです”
“もう一度どこかで会ってもらえませんか”
一週間前に送られてきたメッセージについ既読を付けてしまった。
未読のままならまだしも、既読を付けたからには返信しないわけにはいかない。
なかなかに面倒くさかった彼と再び会うのは気が進まないが、仕方なく返事を書き、会う約束を取りつけてやると、彼は柴犬のスタンプを複数送ってきて盛大に喜んでいるようだった。
(まあ、俺を見つける目印も送っておいたし、流石に待ち合わせくらいはすんなりできると思うけど……)
黒のキャップ
青いレンズのサングラス
黒のシングルライダース
白いTシャツ
自分が送ったメッセージを見返し、既読が付いていることを確認した。
顔が分からないと流石に彼も困るだろう。
服装の特徴を書いておけば、気配を消して歩いていても俺だと気付いて合流できる筈。
人通りの多さを受けてキャップを目深に被り直すと、丁度信号が青になった。
この交差点を渡れば、その先で連絡を寄越してきた彼と落ち会える筈。
左腕に嵌めた時計にチラリと目を向けながら、待ち合わせ場所へと急いだ。――の、だが。
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