研究所

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 今からおよそ20年前、南米の未開の森林から新種の植物が発見された。亜熱帯に生息するというその常緑樹は、ベニキノミと名付けられた。  秋になると枝に真っ赤な赤い果実がたわわに実るそうだ。果実は食用として売り出され、もの珍しさとその高級な味わいによって、たちまち世間の話題をさらった。  試食した専門家は、非常に美味だと評した。また、他の果物より栄養価が高いことも判明した。  ベニキノミは世界各国に輸出され、ぐんぐん知名度をあげていった。新種の果実、三大珍味に加わるか。一時期は新聞の見出しにそんな言葉が踊っていたとも云う。  だが、其の数年後、ベニキノミが実は人体に有毒だという学説が発表された。  ベニキノミ有害説を唱えた学者は、主要21カ国の広い世代から無作為に選出した人々に調査を行ったところ、ベニキノミを食した人の八割が何らかの症状で病院に入院するか、通院する羽目になったと云う。近しい人を亡くした人もいたと報告された。  この学説は大きな物議を醸し、やがて厳正な審査と調査のもと、詳細な分析結果も公開された。  いわく、果実の中心部に含まれる毒素が人間の体内で増殖し、8から10年、長ければ16年程で宿主の体を巣食った挙げ句、酷い高熱や喘息、アレルギー反応を引き起こすらしい。最悪の場合は死に至るとわかり、全世界が驚愕した。  ベニキノミ有害説はまたたく間に世界中に広まり、たちまち販売や輸出入を規制する法律が整備された。世界中の店で売られていたベニキノミは即刻販売禁止令が発表され、紅色の果実は店頭から消えた。  しかし、それでも被害者は後を絶たなかった。  ベニキノミが含む毒素トリプノキシンは、一般的な潜伏期間が10年近くにも及ぶため、既に何年か後に症状が現れるであろうと予測されている”未来の被害者”は、全世界で1億人を超えると予測されている。  各国でも被害者救済措置が整備され始めたが、しかし完全な治療法は見つかっていない。既にベニキノミを食べてしまった未来の被害者は、いつ訪れるとも知れぬ病状に戦々恐々としていた。  そんなさなか、ある経済大国が画期的な方法を実行した。それが人体実験だった。
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