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研究所
ここは、とある山奥に位置する研究所。故あって人体実験の被験者となった子供たちが、故あって悪役を演じ続ける大人たちのもとに置かれる、家ですらない場所だ。
「ふふ、また考え事?」
頭上からふってきた楽しそうな声に、少女は顔を上げた。ぼうっと天井を眺めていた視線が、見知った女性の顔を捉える。珍しく手袋を外していた。
白衣を着た彼女は、手にしたクリップボードを抱えながら柔らかい微笑を浮かべ、一つに結んだ髪を揺らした。
「いつもあなたは、何か考えているわね。頭もいいし・・・・・・将来は学者さんかしら」
「学者なのはカリンでしょ。ヨハンナにも昨日、似たようなことを言われた。仲間がほしいからって、未成年にまで勧誘しなくてもいい」
「あら、ばれちゃった」
カリンは目を細めて苦笑いをした。口元に小さくえくぼが浮かぶ。
「とは言っても、あなたには学者になってほしいわけじゃないの。ほら、この仕事って何かと、嫌われたり偏見を持たれたりしがちでしょう。あんまり良いお仕事とは言えないもの」
カリンはしゃがみ込むと、壁にもたれて座る少女を真正面から見た。優しげな瞳が、微かに憂いを帯びている。少女の細い腕をそっととり、彼女はささやいた。
「余命4年。その年月は、自分のためだけに使ってほしいわ。お外の人よりずっと短いんですもの」
「・・・・・・他の子より長い」
「ええ、そうね」
少女が呟くと、カリンはさも悲しそうに彼女の手を握った。
「でも、あなたたちが”被検体”であることに変わりはないもの。そうでしょう、ローズ」
自分の細い腕を見下ろし、ローズと呼ばれた少女は仕方なくと言ったふうに頷いた。
左の手首に巻きつけるようにしてつけられた、小さな計測器。その画面には、42番目の被験者、そう表示されていた。
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