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王政へのレジスト
コツ、コツ、
翡翠色で出来た広い建物の中で、靴の音だけが響く。その音は、だんだん早くなって行きしまいには、走り出したようだった。
音は一際大きな扉の前まで来ると、止まり同時に"ごんごん"とぶっきらぼうに扉がノックされた。と思ったらもう扉は開かれていた。
「帝王様、これは一体どういう事ですか!」
40代後半ぐらいだろうか、豪華だったであろうくたびれた服をきた男が焦った、いや怒った様子で入ってきた。
「どうしたんだね宰相、騒がしい。わしは忙しいんじゃぞ。」
対照的に豪華な服を着て、横に女を数人侍らし偉そうに上座に座って、ワインを飲んでいる男が答えた。
「どうもこうも、ありません!また戦争するつもりなんですよね!」
「そうじゃが、?それがどうしたのか?」
「問題は、そこでは、ありません!戦争をするのは置いといて、短期決戦をするために核兵器を用いると噂で聞きましたよ!」
帝王は、本当にわからない様子で、
「だからそれの何が悪いんじゃ?」
「なぜ、私に相談してないのですか?しかも、核兵器を落とす場所にわたしたち帝国の領土も入っているのですよ!国民を避難させる準備も必要なのに、明日が射つその日なんて、間に合いませんよ!」
ついに怒気を荒げ不満を口にした。
「ええええいうるさい!さっきからないを言っておるのだ宰相よ。国民は、国に属しておる。そしてこの国の王は、わしじゃ。わしが国民をどうしようと勝手じゃろうが!しかもなんださっきっも言ったが、王はわしじゃ。王であるワシに対してその口の聞き方はなんじゃ、いくら宰相言えど許されんぞ!」
「ですが、王、」
「えええい、うるさいと言っておるじゃろうが。そんなに国民を避難させたいならば、自分で説得しに行けば良いじゃろうが。」
宰相の顔には諦めと決心の表情が浮かんでいた。
「わかりました。王、意見を変えないというならば私が国民を避難させに言って来ます。」
そういうと、踵を返し後ろの大きな扉を開けて出ようとした。
「宰相、昔のよしみで言ってやる。核のボタンを押すのは、朝の10時だ。」
「、、、、、、ありがとうございます。では、」
お礼だけを言い宰相は、今度こそ走り出ていった。
…
「クックック、バカだな宰相ここから核爆弾が落ちる辺境の街まで、1番早い馬車でも、十時間はかかる。そして今は、夜の11時。そこから説得して、ぎりぎりと言うところ。まあ説得できずに宰相もろとも、バーンだったら都合がいいものだな。クークックックック」
宰相が出ていった王の間では、侍らしていた女たちがいつの間にか消え王の不気味な笑い声がいつまでも続いていた。
……
…
「ッ、ハアハア、馬車はやってるか?」
城から帝都の外れの馬車乗り場まで走ってきた宰相は、声を張り上げた。
「へい、何事ですかって旦那、宰相殿でやないですか。こんな、遅くにどうされたんですけ?」
「すまん、説明してる暇はないんだ。何も言わずに馬車をくれないか?頼む」
「おいおい、頭を上げてくれ旦那。旦那がそういうから聞かないけど、申し訳ないんだが、ちょうど今日、車輪を壊してしまってな。頼みは聞きたいが、使えねんだよ。」
業者は、申し訳なさそうに目尻を下げた。
「ッ、な、なら1番早く、体力のある馬を貸してくれ!それに乗っていく。お願いだどうか、」
最後の頼み方は、どう考えても神に対してのものだった。
「だ、だから旦那頭を上げてくでせえ。ええと、早くて体力のある馬でしたね。それなら、いいのがあるんですわ。今日、手に入れたばかりの5歳の雄馬プリオンこいつがちょうどいいすね。」
そういい、厩戸から、毛並みのよく体格にもしっかりした、一匹の戦士を連れてきた。
「業者よ、ありがとう。なんとお礼を言ったらいいものか、お代は、いくらだ?いいねを出そう。」
宰相がポッケから財布を取り出そうとした時、
「いらねえですよ、旦那。今回は特別です。」
「え?いや、しかし、」
「いらねえって言ってるんです。いつも*お世話*になってるんですから、それに旦那急いんでるんでしょ?早くいきな!」
それだけ言い残し馬宿に帰っていった。
「、、、本当に、恩に切る。」
そして、宰相もプリオンにのり、辺境の街へと向かっていった。
…
「はっ、バチン!急げ、プリオン。疲れているだろうけど、頑張ってくれ」
「ヒヒーン」
宰相とプリオンは森の中を全速力でかけていた。しかしプリオンは、雄叫びを鳴らすものの30分後には、ペースが落ちてきてついに止まってしまった。
「くそっ!時間がないのに。でも、プリオンも限界だし俺も少し休憩を挟もう。こういう時こそ焦りは禁物だよな。」
そういうと、プリオンを木にとめ火を焚いた。空は星一つ見えなかった
しばらくすると、茂みからガサガサ、ガサガサと音が鳴った。
宰相は、咄嗟に身をひき
「何者だ!なのなければ迎え撃つぞ!」
というと、すぐ焦ったそしてしわがれた声が聞こえてきた。
「ひぃ、無、無害ですぞそれに私はババアですぞー」
そこには、服が緑色に変色した、皺くちゃなババアがいた。
しかし、宰相は警戒を緩めないでいた。
「なら、なぜこんな森にいる。しかも真夜中だ。」
その無遠慮な言い方に少しカチンときたババアは、
「そんなこと言うなら、あなたもですぞ、私はここから少し離れたところに住んでいる薬師ぞ。この時間にここにいる理由は、薬草をとるためぞ!あなたはなぜぞ?」
急な言葉の応酬に驚くも、薬師ということで服装にも納得し少し、警戒を緩めた宰相は言葉を改め、
「失礼しました。私はこの森を管理している国の宰相をしているものです。今回は、急な用事でこの先の街まで行かないといけないんですが、馬が疲れてしまっていてここで休憩していた所存です。」
と丁寧に返した。
「む、これは宰相殿でありましたか、私も少し言いすぎたぞ。申し訳ないぞ。しかし、国民から人気のある宰相殿がこんなところに一人とは危ないぞ?それに馬も疲弊しておる、一時間くらい休憩しないと馬が倒れるぞ。」
ポッケから出した金時計がきらりと光る。
「一時間ですか!ここから街まで六時間かかる、そして今は12時、くそっ。詳しくは言えないのですが私は急がなけれなならないのです。民を見捨てるわけにはならないのです。どうすれば」
最後の方は声が小さくなっていったが、ババアはピクっと眉を反応させた。
「宰相殿、もしある村で少女が肌の色で迫害されていたら、どうしますぞ?」
ババアは静かに質問した。
「?質問の意図が少しわからないのですが、そうですね、多分迷わず助けると思います。」
話が急に変わり困惑した宰相だったが、なんとか答えた。
「どうしてぞ?どうやってぞ?」
声は少し震えてたような気がした。
「肌の色で迫害する理由がありません私の所で保護します、それに、、少女ってことは子供じゃないですか。子供に辛い思いはさせたくない。子供は希望なのですから。」
国のNo.2とは思えない表情だった。
「ッ、宰相殿は優しいの、何故国民から人気があるのかすこしわかった気がするぞ。」
ババアは目に水を浮かべて笑っていた。
「いえ、私は国民を騙してばかりです。優しくなんてありません。」
「?、自分自身はそう思うかもしれないが、私、いや国民から見ても優しいぞ。所で宰相どのは急いでるんだったぞ、ちょうどいいここで私が馬の疲れを一時的に無くす薬を調合するぞ。」
「ほ、本当ですか!それなら、もう一度走れるってことですよね。」
それはもう子供のような期待した目だった。
「ぞ。しかし、一時的ぞ。効果は、街まで行けるかギリギリのところぞ。」
「おねがします。それでもいいので、早く調合を頼みます。」
「ぞ。」
それだけ言い残しババアは自分のカバンから調合器具を取り出し薬草をすりつぶし始めた。
…「ふ〜できたぞ!あとはこれを馬に注射して、ヨイショ。よし、これで処置は完了したぞ。」
焚き火の前でずっと座っていた宰相は、勢いよく立ち上がった。金時計は1時を指していた。
「本当ですか!本当に本当にありがとうございます、なんとお礼をしたらいいか。いつも、私はみんなに助けてもらってばかりで。」
「助けたくなるのもその人の人望ぞ。宰相殿、あなたには、その人望があるぞ。さあ、ほらいってくるぞ。」
もう一度礼をし木にとめていたプリオンに跨って颯爽とかけていった。
「あなたにもっと早く会っていれば、、そんなことはできないと言うのにぞ」
星一つない曇天の夜空を見上げて涙を流したババアの肌の色は褐色だった。
…
心身共にボロボロでやっと森から出れたようだ。目を凝らしてみると遠くの方で町らしき建物が見える。宰相は成し遂げた。寝にずに走り続けたことでたった六時間で着いたのだった。
「やっt、うわぁーーー」
宰相が喜ぼうとした瞬間、プリオンが崩れ落ちた。
「いててて、はっ、大丈夫かプリオン。」
「ブヒヒーン、ヒヒヒーン」
プリオンは懸命にも立ちあがろうとしていた
「やめるんだ、わかっているからプリオン。無理しないでくれ、ここから先は、走っていくよ。」
「ブヒブヒヒーン」
「納得しないのは、わかってる。だから、待っていてくれ、絶対ここに帰ってくるから。」
そして、宰相は走り出した。
…
「も、門番、ハア、扉を開けてく、ハア、れ、ハアハア。」
息が絶え絶えになりながら二人の門番に話しかけた。
「何者だ!身分がわからないものにと門を開けるわけないだろう。」
正義感に満ち溢れた若い門番は警戒をあらわす。しかしすぐさまもう一人の門番が
「うわあ、す、すいません。宰相殿。こいつまだ新人でして、どうかお許しを。ほ、ほらおまえ謝らないか!」
と言った。一瞬呆けたあとすぐさま状況を理解したのか
「え、え、さ、宰相。すすいません。田舎から出てきたばっかりでして、命ばかりはどうかお許しを。」
と誤った。
二人の門番は息が絶え絶えなで屈んでいる宰相よりもっと頭を下げたのですごい形となった。
「ふ〜、やめてくれ二人とも。誰かが見ていたら変な誤解をされる。それよりも代表者を呼んでくれ。、今すぐだ。」
「「はいっ」」
二人の門番は、ものすごい勢いで、代表者を呼びにいった。
「早くしないと、、」
日は、もう登っていた。
…
「こんなところに何ようですか?宰相さん。」
目の前の木製の椅子に腰掛け眼鏡をかけた男が切り出した。宰相が通された部屋、今いる部屋は本棚にテーブル、右端に暖炉しかない簡単作りとなっていた。
「ええとですね、今回隣国と戦争をすることになったのはご存じでしょうか?」
「ええ一応接している町ですし、それに開戦は今日でしたよね。」
宰相は一度頷いてから、
「帝王様は、この度の戦争は短期決戦を実現なさるために、核兵器を使用することにしたそうです。」
「そうなんですか、それで何が問題なんです?」
核兵器を使用すると言う考えに忌避を持たない代表者を見て、少し苛立ちを隠覚えた。彼は知っていた、核兵器の恐ろしさを。
「問題は、その範囲なのです。被害がこの町まで届くことがわかりました。なので避難を、」
「な、なんだって!被害がこの町まで来るなんて初めて聞いたぞ!どう言うことなんだ!」
ここで代表者は初めて焦りと怒りを露わにした。
「聞いてないのは当たり前のことです。昨日帝王様が決めたことですから。それで、早く避難していただきたいのです、10時にはここに被害が来るようですから。」
宰相も焦っていたのか、無理矢理話を進めようとしてしまった。
「ま、待ってくれ!そんなこと急に言われても無理に決まってるだろう!町には家がある、店がある、それに町民が納得するわけがない!宰相さんが帝王様を説得してくれないか!」
「しかし、10時に被害が来るのですよ!一刻も早く避難しないと。」
「そう言われても、急には無理なのですよ!だから、説得してください。」
何度も何度も押し問答が続いていたその時、突然宰相が声を張り上げた。
「無理なのですよ!もう、王には説得済みです。ですが王は私の話に耳を傾けてくれませんでした。」
そして深海のような暗くて重い沈黙が二人の間に訪れた。暖炉の火が少し小さくなった気がした。
「それに、問題はそれだけではないのですよ。」
沈黙を先に破ったの意外にも代表者の方だった。
「?町にある家や店だけの問題だけではないと?」
「はい、実はこの町は若者よりお年寄りの方が圧倒的に多いのです。なので体の不自由なお年寄りは避難するのが難しいのです。それに避難する門の前には、階段があります。この問題が解決できれば多分どうにかなる、いや成し遂げて見せましょう。」
焦りや怒り、心配などとは打って変わり決意の二文字が代表者の目には、あった。
「そうだったのですか。確かにここに来るまでに見たのはお年寄りが多かったですね。これらの問題ですか、そうですね少し考えさせてください。」
そういい、宰相は出ていった。
「私も避難の準備はしときましょうか。」
そしてまた、宰相のことを慕う人が増えていった。
…
宰相は町の端にある丘の中腹にいた。
「あぁぁぁ、ひとつも思いつきませんね。」
そういい、草の上に寝そべった。この町に来てから30分は経とうとしていた。
その時だった。真上、厳密にいうと丘の上から「おっとッと、うわ〜」
と焦った少年の声がしたと思うとすぐにおむすびがコロコロと宰相の横を通り過ぎようとしていた。
「すいませ〜ん、とって下さーい」
宰相は、「あ、ああ」と答えるとおむすびを取るために追いかけた。
しかし、走っても走っても追いつかない。しまいには川の淵に立てかけてあった木の板の表面をころころころころと上がり「ぽちゃん」と川に落ちてしまった。
「あぁ、僕の朝ごはんが〜」
横を見るとさっきの声の少年がガックリと肩を下ろしていた。
「すまなかった、少年。間に合わなかった、お詫びと言ったらなんだがこれをやろう。そしてありがとう!」
そういって少年に小銭を数枚渡すと町の中心部に走り出した。
「?、なんだったんだろうあのおじさん。なんか嬉しそうな顔をしてたなぁ、まあいっかこれくれたし。」
少年はもう手の中のお金に興味をうつしていた。
…
宰相は、もう一度代表者と会っていた。
「代表者よ!思いついたぞ!」
顔を綻ばせながら説明し出した。
「この町の馬車を使えばいいのです。馬車に体の不自由なお年寄りを乗せ避難させるのです!」
「おお、それはいい案ですな!あ、でも階段のせいで馬車は使えませんぞ。」
「それについても大丈夫です。馬車の車輪が通る階段に木の板を当てるのです。そうするとどうでしょう、車輪がちゃんと登れるってわけです。どうですか?これなら行けますか?」
「ええ、やってみる価値はあるでしょう。こちらも避難の準備はできているので早速取り掛かりましょう。」
そうして二人は頷き合い部屋から出て指示を出し始めた。
…
町から週十キロ離れた場所に仮設の避難場所が立てられていた。
「ここなら被害は届かないでしょう。本当に協力ありがとう、代表者。」
「いえいえ、アイデアを出したのは宰相さんです。それよりもう一度王を説得してくれませんか?」
まさかもう一度頼まれると思ってなかった宰相は驚きを表した。
「納得してくれたんじゃなかったんですか。」
「いや、違う違う誤解しないでくれ。だって今は9時だ。被害まで後一時間はある、それにまだ店や家を諦めたくはない。」
「しかし、一時間では帰れませんよ。私だって寝ずに約六時間かかったんですよ!」
「それって、馬1頭の話ですよね。幸いここには避難に使った馬車と馬があります。馬六棟を使ってそれはもう光の速さでいくのです、それにお年寄りの中には昔業者をやっていて馬車の速さ大会では国一位になったっこともあるお婆がいるのです!」
少し離れたところで手をグッジョブの形をしたお婆がいた。
「本当ですか、それはすごい!それならもしかしたら行けるかもしれません」
宰相が『なら早速行きましょう』と言おうと思ったその時、
遠くの方でピカッと光ると「ドォゴーン」と言う音が鳴った。時が止まったようだった。ここにいる皆が呆然としていた。光ったのは町の方角だった。
「い、今のは爆弾?そ、そんな!後一時間あるはずなんだろ宰相さん!」
代表者が喋った途端周りが騒がしくなった。
「おいおい、あっちの方角は町だぜ」
「いやー私たちの故郷がー」
「あああ儂の店があぁあー」
「僕たちの家はどこいったの?」
ドスッ、宰相は崩れ落ちていた。しかし目は死んでいなかった。
「て、帝王様。そこまで落ちたのですか?私をも殺すつもりだったのですか?もう、ついていけません。あなたはやってはいけないことをしてしまった。」
「さ、宰相さん?大丈夫ですか?」
突然崩れ落ちた宰相を心配した代表者が声をかけるもすぐに立ち上がり
「申し訳ないのですが、私は王に話を付けにいかないといけません。」
と静かにいった。
「ああ、それはぜひそうしてくれ宰相さん。私たち町民も怒りがあ収まらねえ。6頭馬車で急いで行ってくれ!」
「ええ、それはこちらからもお願いします。でも、一つだけ私の馬も一緒につれていくことをお願いします。」
…
プリオンは疲れた体を癒すようにぐっすりと眠っていた。しかし宰相が一声かけるとすぐさま起き上がり「ヒヒーン」と鳴いた。そしてプリオンを馬車につけ6頭馬車が完成した。業者であるお婆が帝都の近くまで寝ていてくれと頼むほどボロボロだった宰相はものすごい揺れなど気にせずすぐに眠った。まだ空は曇っていた。
……
…
「宰相はん、起きてくだせえ」
そんな声が遠くから聞こえ目を覚ましてみると目の前にしわくちゃお婆がいた。
「うおおい、だれっ!」
宰相はビビり散らかしてここが馬車の中ってことも忘れて飛び上がったので天井に頭を打ちあてた。
「誰って、お婆ですぜえ。ここまで乗せてきたじゃないですけえ、そんなことよりもう帝都に着きましたっせ。」
周りを確認した宰相はここが帝都のはずれだと言うことに気がついた。
「乗せてきた?ついた?あっ、ああ思い出した。どうやら寝ぼけてたようだ。」
寝ぼけていたっといたがお婆は天井にぶつけたからでは?っと少し心配になった。しかし、心配を口にすることはなかった。それは宰相が少し逡巡した後すぐに、
「やばい!いかなければ!お婆送ってくれてありがとう!」
といって馬車から飛び降りたからだ。
宰相は走り出した。王がいる城の元へ
…
翡翠色でできた建物にコッコッと靴の音だけが響く。前回と違う点は最初からその音が速いことだけだろうか、いや違った。今回は大きな扉の前まで来ると扉を叩かずに入ったのだった。しかし、王の位置は変わってなかった。それだけでない、隣に女を侍らしているのも片手にワインを入れたグラスを持っているのも何一つ変わってなかった。宰相は王の座の前に堂々とたった。そして王が口を開いた。
「、宰相、民を見捨てたか。」
「何をいっている?見捨てるわけないだろう!民は避難させたにきまってるだろう!」
「ならなぜこの時間にここにいる?速すぎないか!おかしいだろう。」
宰相は何ていおうか迷ったがどうでもいいことに気がつき素直にいった。
「王あなたと違って私には民がついている。町のみんなが協力してくれたよ。」
「お前、自分が何をいっているのか自覚しているのか。王の物である民が自分についているだと、馬鹿馬鹿しい。」
王は拳を震わせ玉座から立ち上がった。
「王、あなたこそ自覚しているのですか?民が避難しきっていないかもしれない状況の中あなたは言っていた時間より一時間も早く爆弾を落としたのですよ!避難が間に合っていなかったらどれだけの人が被害に遭うと思っているのですか!」
自分より怒っている宰相を見て余裕が出てきたのか玉座に座り直した。
「宰相よ。先ほどから言っておるぞ民は、王の物だと。それに早く爆弾を使用したのはせめてくる敵国に少しでもアドバンテージを取るためのただの奇襲作戦だ。何も悪いところはないだろう?」
「ふざけるな!さっきから物、物。民は断じてあなたのものではない!なぜそんなにも命を軽んじれるんだ!同じいのちだろうが!」
熱くなってきた宰相にどこから兎も角出てきた兵士が取り囲む。
「うるさいな。さっきから不敬罪だぞ。それに王族の命と民の命が同じだなんて虫唾が走る。」
「ッ、あなたはどこまで、、あなたのような人は、王にふさわしくない!いや、王政なんて相応しくない!自分のことは自分で決めれてもいいだろう!」
ついには王政までも批判し出した宰相が流石に何するかわからなくなった王は宰相から一歩下がって
「ええいもういい!引っ捕らえよ。」
と兵士に命じ、すぐさま兵士は宰相を取り押さえた。
「捕まえるのですか!都合が悪くなると消すのですか!王よ。何か答えてください」
そう言う宰相を尻目に連れていけと一言だけ言うと奥に消えていった。
…
「まさか、王族に逆らおうとするとは、こうしてはおれん。宰相を公開処刑にすることで一層権力を高めるしかあるまい。帝都中心部に処刑場の準備をしろ!いそげ。」
近くにいた従者にそう指示をだした。
……
…
「親愛なる民よ。よく集まってくれた。今日は愚かにもこのワシに逆らったこの宰相の処刑を皆のものに見届けてもらおうではないか!クックック」
王は処刑台より少し高い台の上に登りそう切り出した。その言葉を聞いた国民たちは騒然とした。あの国民に人気な宰相が処刑されるのだ。皆驚き困惑した。
「静まれーい。、、、、、うむでは早速だが処刑を始めようではないか。ああ、心配するな。宰相の最後の言葉だけは聞いてやろうではないか。宰相よ、処刑を前に何か言うことはあるか?」
笑いを堪えた様子で宰相に話しかけた。すると宰相の方も微笑し
「帝王よ。あなたの思い通りにはならない、させないよ」
といった。虚をつかれた顔の王はすぐさま顔を真っ赤にし兵士に「直ちにこの愚人を処刑せよ!」と命じて声を荒げた。処刑する二人の兵士は宰相さんすいませんと泣いていた。
国民の何人かは瞬きをしていたかもしれない。その一瞬にザシュッ、そんな音が聞こえたようだった。首からの流血は弧を描き民の目にしっかりと焼きついた。そして妙に高い王の笑い声が耳にこびりついた。笑い声がいつの間にか消えて処刑なんてなかったような街並みに戻った頃、国民は我に帰った。しかし地面には血痕がまだ残っていた。
…
「そんな宰相さんが!」
「殺されたくない!て、帝王様に逆らっちゃダメだ。」
「この国に民を味方するような人がいなくなってしまった。」
そんな声が帝都中に響き渡っていた。中心も端も同じようにし宰相の死を悲しんだ。しかし大体の人は誰も王に逆らおうとはしなかった。皆、家族や親友、恋人などを残しては死にたくなかった。もう一度言おう、大体の人は逆らおうとは思わなかった。そう何人かは怒っていた。
「そんな宰相の旦那が!帝王のクソやろうなんてことをしてくれてんだ!」
取り分け感情を表に出していたのは宰相に馬を貸した厩戸の業者だった。
「旦那は、俺にとって恩人なんだ!なのになぜ殺されなければならんのんけ!せめて、理由が知りたい。旦那が処刑されないといけんかった理由を」
それから業者は帝都中を聞き込みに走った。誰か理由を知っていないかと。酒場、花屋、住宅街、スラムどこで聞いても皆知らなかった。業者はガックリ肩を下ろし自分の厩戸に一旦帰ることにした。業者が厩戸に帰り馬の世話をしようとしたところ、森の方からダッダッダッダと馬の蹄の音と老婆の声がした。
「プリオンやー。どこ行きよるんけー」
森からバサバサっと出てきたのは毛並みもよく体格にもしっかりした、一匹の戦士、プリオンと次いできたお婆だった。
「こ、これは旦那のプリオンじゃないか!そこのお婆さんなんでプリオンをしってんだい?」
そう業者はお婆に話しかけた。
「儂ですけ?儂はこの国のはずれにある町だったもんに住んでたものですぜぇ。プリオンと一緒に宰相はんを載せてきたんですけえ。」
「だ、旦那を町から乗せて来ただと、もしかしてお婆さん旦那が殺された理由を知ってるんじゃないだい?」
さっきほどまで落ち込んでたのが嘘みたいに期待にに体を震わせながら聞いた。
「今、宰相はん死んだって言ったかい?嘘だろう。」
お婆は信じれなかった。さっきまで自分の後ろで寝ていたのだ。
「知らなかったのか。そうだ、旦那は処刑されちまった。っくそ俺は見ていることしかできなかった。でも腹がった、そして旦那がなぜ殺されないといけなっかたのか知りたいとも思ったんだ。お婆さん、知ってることがあったら話してはくれないだろうか?」
「宰相はんは、、、、、、」
そうお婆は切り出し、町であったこと、王が何をしたのか、そしてそのことで宰相が怒り抗議をしにいったこと。全てを業者に話した。
「王よ、よくも旦那を。許さない」
業者はまた帝都中をまわった。今度は話を聞くのではなく聞いてもらうために人を集めにいったのだ。
…
ガヤガヤ、業者によって集められた決して多くはない民が中心部に業者を囲っていた。業者は少し高い台に登り喋り始めた。
「忙しい中集まってくれて感謝しかない。宰相の旦那のことについてだ。なぜ処刑されたかわかった。」
民衆の声が途中から一段と大きくなった。やめてくれ、王に目をつけられたくない。そんな声も聞こえた。でも、業者はしゃべるのをやめなかった。
「旦那は民のために王に抗議したんだ。王が核兵器の使用を自国の領土内で使用した。それも避難はさせようとはしなかったらしい。旦那は一人で避難を実現し、そして王城に向かった。もうみんなも気づいたんじゃないか?そこで旦那は抗議をいい王の反感を買ったのだろう。なんて横暴だろう。みんなは忘れたか?宰相の旦那はいつも俺たち国民を守ろうとしてくれたことを。俺は覚えてるぞ、まだ俺が若かった頃、俺は金に困り窃盗を繰り返してついに捕まったんだ。捕まったことで俺はさらにグレた。守衛官の言うことには口も開かなかった。そんな時、旦那は来た。最初はもちろん口を閉ざしていた。でも旦那は毎日来ていつも帝都のいいところを言うんだ。あそこから見る帝都はいい、とかあそこのパン屋は絶品だ。とか一向に理由を聞いてこないし説教もしなかったんだ。それが俺には新鮮だった。そこから俺は更生して刑務所から出ることになった。でも元々一文なしだから何もできねえ。そこでも旦那は助けてくれた、今の職場を斡旋してくれたんだ。俺は旦那に恩しかねえ、ここにいるみんなも一度は旦那に助けてもらったんじゃないか?王は、何もしてくれなかったのに、助けた旦那が殺されるなんておかしいだろう!そうだろみんな!」
最初は誰も話さなかった。でも段々と声は大きくなった。
「私財を投げ打って孤児院を建ててくれた!」
とシスターが
「私はチンピラに絡まれていたところを助けてもらった!」
と居酒屋の看板娘が
「市民上がりの宰相で私たちのことよくわかってくれていた。」
と主婦が
「さいしょうさん、はなかってくれた!」
花屋の小さな女の子が、
「俺も、」
「私も、」
と言う声が中心部だけでなく帝都中に広がり始めた。その中には兵士もたくさんいた。
「旦那はいった。王の思い通りにはならない、させないと。死んだ宰相の旦那のためにも立ちあがろうじゃないか!みんなよ!王を倒すぞー!」
「「おおおおお」」
こうして、帝都民の兵士を合わせたほぼが王城に向かって進行し出した。
…
ダダダ、ダダダ、ダダダ、翡翠色の建物の中にたくさんの靴の音が鳴り響く。そしてバンッ大きな扉が開かれると同時に民が流れ込んできた。
「うおおい、何事じゃなぜ市民がこの場におる?穢れるであろう!」
そう言う王は一人で玉座に座っていた。
「帝王様!」
反抗する兵士の一人が声を発した。
「おお、兵士ではないか!こいつらを引っ捕らえよ。」
「無理なことです。あなたは今から死ぬのですから!行くぞ!みんな、宰相殿敵討だー」
「「おおお」」
沢山の民が王をお殺しにかかった。
「だ、誰か!助けろー。わしは王だ。助けたら褒美もやる。」
王は泣きながら恥も外聞もなく騒いでいた。
「無駄です、王あなたに助けなんてきません。うおりゃー」
ザシュ 一人の兵士が王の首を刎ねた。皮肉にも宰相の首を刎ねた音によく似た音だった。
「王の首、打ち取ったぞー」
「解放だー」
「仇は取りましたよ宰相さん」
そんな声がどこからも聞こえてきた。空は晴れていた。久しぶりに晴れていた。
……
…
王が打ち取られ、これによりう王政は崩壊。市民による政治が始まっていくことになった。
しかし、民は知らなかった。なぜ、市民上がりの宰相をあれほど潔癖な王が宰相という役職にしたのかと言うことを。
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