APDについて

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 私がAPDという障害に向き合わざるを得なくなるには時間はかからなかった。APDのことを考えていると、今まで聴こえていたものまで聴こえなくなるのではないかと考えてしまう。しかし、実際問題としてオフィスのコピー機の音や、キーボードを叩く音が私の聴こえを邪魔している。何度も聞き返すことが増えてきた。今まで、やり過ごせてきたことができなくなった。  職場での日々が苦痛になってきた頃、APDについての情報をネットで調べていると、APD YouTuberなる人がいることを発見した。早速、YouTubeを見てみると、パソコンの画面に自宅と思われる部屋で話をしている女性の姿が映る。仮にそのYouTuberをEさんとさせてもらうが、 「APDの聞こえ方は、ところどころ虫食いみたいになっています」 と言っていた。実際に、どのように聴こえるかを擬似体験させてくれる動画もあった。その聞こえ方は、自分の聞こえ方そのものだ。文章で伝えるのも大変なのだが、周囲の雑音に邪魔されて肝心の声を聞き分けることが困難なのだ。  そういえば、「APD(聴覚情報処理障害)」という言葉が「LiD(聞き取り困難)」という表現に取って変わりそうだということもこの時期に知った。EさんのYouTubeのタイトルにも、LiDという文字が出てくるようになった。混乱しそうになりながら、両方が併記されているサイトを読み漁っていったのだった。  仕事上の電話応対はほとんど同僚に任せるようになっていった。聞き取りはますます困難になっていき、電話からは言語ではないノイズが聞こえるばかり。誰かの発言に対して、聞き返すことも増えていった。上司も同僚もさすがに怪しく思ったのか、「どうしたの?」とか「何かあった?」などと聞いてくるのだが、説明するには困難なことが多すぎた。まずは自分の症状。 「聞こえているんだから、問題ないんじゃない」そう言われるのがオチで、聞き取れないことについて話してもにわかには信じてもらえなかった。  さらには、医者の診断もなかったので、ただの気のせいだと思われておしまいになってしまうことも多々あった。  これは医者に診察を受けて、耳に異常があることを証明してもらわないといけない。そう思うと、ネットでAPDの診察について調べた。すると、多くの耳鼻科ではまだAPDの知識が広まっていないこと、耳鼻科の中でも難聴に詳しい医者なら知っているかもしれないということを突き止めた。  一か八か、行ってみるしかない。私は決心を固めた。
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